ポストフェミニズムに関するブログ

ポストフェミニズムに関する基礎文献を紹介するブログ。時々(とくに大学の授業期間中は)ポスフェミに関する話題を書き綴ったり、高橋幸の研究ノート=備忘録になったりもします。『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど :ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』(晃洋書房、2020)、発売中。

2019-01-01から1年間の記事一覧

現在「女性の性的客体化」を私たちはどう論じていくべきなのか

「全ての女性が、性的客体化によって傷ついている」という言い方には、ちょっと無理がある。「性的客体化」という概念そのものをぶち上げて流通させるところから始めなければならなかった1970年代には、そういう言い方も戦略としてありだったが、現代ではも…

【論文紹介】「ガールパワーとチックリット」『ポストフェミニズム:文化的テキストと理論』([2009]2018)

Stéphanie Genz and Benjamin A. Brabon, 第1版 2009年、第2版 2018年,Postfeminism: Cultural Texts and Theories の(『ポストフェミニズム:文化的テキストと理論』)中の 第4章 "Girl Power and Chick Lit" (「ガールパワーとチックリット」)の要約翻…

【論文紹介】Sex is Power Scaleについて

Sex is Power Scale(SIPS)というのがありまして、これ重要な気がしています。詳しくいうと、「自分の性は力の源泉だ」(Self-sex is Power Scale(S-SIPS))と「女性一般の性は力の源泉だ」(Woman-sex is Power Scale(W-SIPS))の二つに分かれています…

【論文紹介】誰かの性的客体となることを通した女性たちの性的主体化について

Mindy J. Erchull & Miriam Liss, 2014, "The Object of One’s Desire: How Perceived Sexual Empowerment Through Objectification is Related to Sexual Outcomes", Sexuality & Culture 18:773–788 (=「誰かの性的客体となること:性的客体化を通した性…

ジェンダーから見るセカイ系:戦闘少女の登場と少年の受動性(2)

序章 1.セカイ系作品群をいまジェンダーの観点から論じることの必要性 1990年代後半から2000年代に生み出されたセカイ系は、基本的に男性が作る男性のための作品だが、そこでは戦闘能力としても精神的にも弱い男性主人公が繰り返し描かれた。圧倒的な強さを…

ジェンダーから見るセカイ系:戦闘少女の登場と少年の受動性

あるところに「本企画」として提出した文章なのですが、そういえばもう半年くらいたったのに音沙汰がないので、ダメだったのかなーと思っているところです。なので、公開。 セカイ系をジェンダーの観点からきちんと(体系的に)分析してまとめたものはなかっ…

好意的性差別について

性差別(sexism)には、「敵対的性差別」だけでなく「好意的性差別」もあるということを述べ、この二つを組み合わせた「両価性性差別尺度( Ambivalent Sexism Inventory、ASI)」を開発したのは、Peter Glick & Susan T. Fiske(1996)であります。 Peter G…

「ポストフェミニズム」と言うことの認識利得

(*単行本用の原稿として書いていたものですが、どこにも入らなくなってしまったので、ここにアップします。紙に印刷して本の形態で読む用の原稿であり、ブログ用の文体じゃないので、若干読みづらいかもですが、すいません) 「ポスト(post)」とは、基本…

フェミニズム原理の日本社会への浸透

例によって、或る原稿のために書いた文章ですが、全面カットすることにしたので、ここに掲載させてください。どこかで今後使う可能性もあるので、ここ間違っているよ、とか、ここの論理展開が変ではというのがあったら、指摘してもらえるとありがたいです。 …

【人の論文紹介】伝統的男性役割(5側面)/新しい男性役割(4側面)の心理学的解明

本日の日本女性学会のMLでも、男性役割についての議論が回ってきていますね。 心理学は性別役割についてかなり長いこと(1960年代の英語圏で最初の盛りあがりを見せた)、細かく分節化し、経験的に測定して、議論してきているので、もっとここらへんの知見を…

フェミニズム・バックラッシュの歴史まとめ2

(2)人工妊娠中絶反対運動 アメリカでは、1960年代後半から、アメリカ合衆国憲法修正第14条を根拠とする女性の「プライバシーの権利」に基づいた中絶合法化を目指す運動がみられるようになった。1970年には妊娠中の未婚女性ジェーン・ロウ(Jane Roe)[1]ら…

フェミニズム・バックラッシュの歴史まとめ1

或る原稿のために書いた文章ですが、ざっくり全面カットすることにしたので、ここに掲載させてください(ウェブページで読む用の文体ではないので若干読みづらいところはあるのですが)。 のちほどどこかで使う可能性があるので、「ここの事実認識間違ってい…

ニヒリズムの極北ニーチェの魔力

0.人生を変えるものとしてのニーチェ 私は高校生の時にニーチェ思想にぶち当たってしまったために、人生が変わってしまった感がある。いや、そんなことを言えば、それ以外にも色々なあやまちはあったのであって(思想的に「あやしげ」(*)な人にばかり恋…

社会構築主義以降の社会記述法 ストラザーン『部分的つながり』に見るハラウェイの可能性について

今年の夏は海外出張もなく(=研究費が取得できていないということ(泣))、自宅時間がけっこうとれたので、読みたかった本をたくさん読めました。とっても幸せであります。夏休み一生続けばいいのに。と願ったところで続くわけでもないので、自分の中の区切…

【翻訳】Cotter, et. al., 2011 「ジェンダー革命の終わり?1977年から2008年の性別役割態度について」

David Cotter, Joan M. Hermsen, Reeve Vanneman, 2011, "The End of the Gender Revolution? Gender Role Attitudes from 1977 to 2008", American Journal of Sociology, Vol.117:259-289. 本文はここから入手できます http://www.vanneman.umd.edu/papers…

【翻訳】Pamela Aronson 2003「フェミニストかそれともポストフェミニストか?フェミニズムとジェンダー関係に対する若い女性の態度」

Pamela Aronson , 2003, “Feminists Or “Postfeminists”?Young Women’s Attitudes toward Feminism and Gender Relations”, Gender & Society 17(6):903-922.(本文はインターネット公開されていないので、お近くの大学図書館で。) 高橋によるこの論文の簡…

【翻訳】Yang, G., 2016, 「ハッシュタグ・アクティビズムにおける語りの主体:#BlackLivesMatterのケース」

Yang, G. (2016). Narrative Agency in Hashtag Activism: The Case of #BlackLivesMatter. Media and Communication, 4 (4), 13-17. ( https://repository.upenn.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1500&context=asc_papers ) アブストラクト ハッシュタグ…

『天気の子』の物語原理の見えにくさ:これまでの新海作品から『天気の子』へ  

*ネタバレありです。 1. 新海誠はロマンティックの極北であり、切なさの巨匠だ。 ロマンティックなものは、シニカルな態度で批判的に論理を楽しむという鑑賞態度を拒む。ノれるかノれないかだけが問題になってくる、それがロマンティシズム。 80年代的ポ…

一般女子に受けの良い『おっさんずラブ』について

腐女子でない「一般の女の子」の『おっさんずラブ』(以下、さしあたり2018年4月21日‐6月2日に「土曜ナイトドラマ」枠で放映された前7回のドラマを指す)好き率が高い。 今年(2019年)のゼミ中や、講義後に個別的に話に来てくれる女の子たちとの雑談のなか…

キリトはなぜGGOで男の娘になるのか

0. 長くなったので、最初に結論を言います。 ・前提:元の平凡な少年であるよりも、男の娘の方が、女のコ(シノン)との恋愛の駆け引きをしやすく、また女のコを陥落させやすい。 結論:物語展開上、シノンと恋愛の駆け引きをする必要があったので、キリト…

NHKがキズナアイを起用したことを批判するフェミニストを批判する女性たちにみる、ポスト・フェミニズム的態度の特徴2つ

いまさらですが、NHKキズナアイ問題に気づきました。遅すぎて、すいません。 このブログはポスト・フェミニズムをテーマとしているので、下記のまとめについて検討します。 togetter.com ポスト・フェミニストの最も簡潔な定義は、フェミニズムに違和感を示…

大塚英志の「少女フェミニズム」

(注記:愛妻家として知られていた江藤淳のDVの話が5.以降で出てきます。無理な人は読まないでください。) 『江藤淳と少女フェミニズム的戦後』(大塚英志、ちくま学芸文庫、[2001]2004) 江藤淳は「少女フェミニズム」的だというのが大塚のこの論考での主…

00年代東浩紀再考(2)「動物化」とは何だったのか

「00年代東浩紀再考(1)」の議論をまとめると、 「大きな物語」がなくなると、救済されないっていうか、なんていうかちょっと悲しい気持ちがする。この悲しい気持ちについてきちんと考えてみようというのが私の主張でした。 「00年代東浩紀再考(2)」では…

00年代東浩紀再考(おまけ)恋愛=実存と思想の連関

おとといからやっている、東浩紀を読み直す作業で発見した、おまけみたいなもの。 思想と恋愛(実存の問題)のつながりについて、けっこう私的には示唆的だったので、共有します。私は昨年、現代の若者の恋愛観とか草食化とか、草食化した後の異性愛関係とし…

00年代東浩紀再考(1)「大きな物語からデータベース消費へ」を受けて2010年代現在考えるべきこと

1.はじめに 私は高校生から学部生時代に小林秀雄、柄谷行人、吉本隆明、江藤淳をけっこうがっつり読んできました。大学院生になった頃、そろそろ時代順でいくと大塚英志、東浩紀あたりかなーとなったのですが、なぜか当時は大塚さんや東さんが読めなかった…

ポストフェミニズムとは――Ana Jordan(2016)の定義――

フェミニズム、アンチ・フェミニズム、ポスト・フェミニズムの違いを概念化してくれている論文を紹介します。 Ana Jordan, 2016, “Conceptualizing Backlash: (UK) Men's Rights Groups, Anti-Feminism, and Postfeminism”, Canadian Journal of Women and t…