性差別(sexism)には、「敵対的性差別」だけでなく「好意的性差別」もあるということを述べ、この二つを組み合わせた「両価性性差別尺度( Ambivalent Sexism Inventory、ASI)」を開発したのは、Peter Glick & Susan T. Fiske(1996)であります。
Peter Glick & Susan T. Fiske, 1996, The Ambivalent Sexism Inventory:
Differentiating Hostile and Benevolent Sexism, Journal of Personality and Social Psychology, Vol. 70, No. 3,491-512.
(上記図は、p.498より引用)。
重要なのは、好意的性差別なるものをどのような質問項目で測定しているのかですよね。その一覧がこちら。
「女性は台座の上に設置されるべき(pedestal)」(うーん、うまく意訳できない)
「女性は男性から大事にされ(cherished)、守られるべきだ」
「災害時には、女性は最初に救助される必要はない」(逆転項目)
補完的ジェンダー差異
「女性は道徳的感受性において優れている」
「女性は、男性がほとんど持っていない純粋な特性を持っている」
「女性は文化や趣味において、より洗練された感覚をもっている」
異性愛的親密性
「すべての男性は女性を崇敬(adore)すべきだ」
「 男性は、女性なしでも完全である」(逆転項目)
「男性は、人生で成功しても(accomplishment)、女性なしでは不完全だ」
「人々は、異性愛的ロマンスがなくても、幸せである」(逆転項目)
~~ここまで~~
このような質問項目で測定している。
・「男性は女性をadoreする」という考え方って、神への愛を女性への愛へとスライドさせてきたキリスト教文化圏固有な感じがするので、日本人の恋愛観ではこの数値は低くなりそう。
ASIに関しては、ちゃんと日本語訳版も作られて信頼性と妥当性の検証がなされているのですが(注1)、私はこれを手に入れられていないので、さしあたり元のグリックとフィスクの(私の意訳)を載せました。
(注1)宇井美代子・山本眞理子 2001 Ambivalent Sexism Inventory (ASI)日本語版の信頼性と妥当性の検 討 日本社会心理学会第 42 回大会発表論文集, 300-301. で、知っている人にお尋ねしたいのは、↑これどうやったら手に入るのでしょうか?ということ。 「日本社会心理学会」のHPの「大会論文集」のところをみると、「非公開」になっています。http://iap-jp.org/jssp/conf_archive/search.php?p=4&w=&y=2001「発表登録時に著作権譲渡手続きを行っていないため」、非公開とのこと。なぜこんなに大事なものが非公開になっているのだ!もったいなさすぎる! 大会論集って、会員のところに自動的に送られてくるアレですよね。どこかの社会心理学研究室とかに行けば収蔵されてそうですが(本郷の社会心理学研究室まで行くの遠いなぁ)、他に手に入れる方法ないでしょうか。日本社会心理学会に詳しい方、教えてください(もしくは手元にある人、個人的にシェアしてください!)
https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/4/42649/20170324131424297256/JEducSci_10_149.pdf
の解説によると、グリックとフィスク(1996)は「性差別主義者は敵意的性差別と好意的性差別を時と場合によって使い分け,自己の行為を正当化するという仮説と ASI を用いた調査結果が一致することを明らかにした」。
好意的性差別の何が問題って、「男」か「女」かで人を分けるという点で、敵対的性差別を裏側から補強するようなものになっている点。そして好意的性差別と敵対的性差別とを時と場合によって使い分けることで、sexism(性によって人を区別して捉えること)が存続する点。
・sexismの日本語訳って「性差別」が定着していますが、「性差別」だとちょっと強すぎるような気もします。本当は「性主義」でいきたいところですが、こんな日本語は誰も理解してくれないか。
吉岡論文も面白かったので、また今度ご紹介します。