ポストフェミニズムに関するブログ

ポストフェミニズムに関する基礎文献を紹介するブログ。時々(とくに大学の授業期間中は)ポスフェミに関する話題を書き綴ったり、高橋幸の研究ノート=備忘録になったりもします。『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど :ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』(晃洋書房、2020)、発売中。

論文紹介

<コモン>は近代の「所有」概念をどう組み替えるのか——『アセンブリ』第2部「社会的生産」の骨子まとめ

ytakahashi0505.hatenablog.com からの続きですが、本記事だけ読むこともできます。読んでいる本はこれです。 個人単位の私的所有から社会的所有へ <コモン>とは社会的富の共同統治を目的とするものである。したがって、<コモン>の議論は、個人が持って…

親密なパートナーからの被支配感は男性の方が高いけど、それが精神的健康に影響しにくい

親密なパートナーからの被支配感は「(異性愛)男性」の方が「(異性愛)女性」より高いが、 「それは精神的健康に影響しにくい」(p.137)という研究結果が重要な気がしたので、メモ+紹介。 被支配感は次の尺度で測定されています。 上野淳子, 2021,「<研…

ルーマンの『情熱としての愛』まとめ

" data-en-clipboard="true"> 最近また読み直したので、まとめておこうかなと思い立ちました。ページ数は木鐸社版の『情熱としての愛』(2005、佐藤勉・村中知子訳)です。 1.ゼマンティク分析とは " data-en-clipboard="true"> ルーマンがこの本でやって…

大塚明子『『主婦の友』にみる日本型恋愛結婚イデオロギー』(2018、勁草書房)まとめ

個人的に面白かった点や「発見!」だった点を中心に(というか、ほぼそこだけを)まとめます。 大塚さんが分析対象にしている『主婦の友』というのは、戦前から発行し続けている女性三大誌の一つで、最も庶民性(ポピュラリティ)が強く*、最も売れていた雑誌…

プロテスタントにおけるロマンティックラブとは何なのかまとめ

1. ytakahashi0505.hatenablog.com 前回、ノッターさんのご著書を論点整理しながら、欧米のプロテスタントたちが確立した狭義の意味での「ロマンティック・ラブ」が日本において成立したことはなかったということを論じてきました。 今日は、その狭義の意…

アメリカの10代の性行動の消極化は1990年代から継続中:NSFGデータ分析の報告書から

1. ytakahashi0505.hatenablog.com の続きです。 とりあえず、アメリカの疾病対策予防センター(center for disease control and prevention, CDC)のnational center for health statistics(NCHS)がやっているNational Survey of Family Growth(NSFG)の…

アメリカにおける性行動の不活発化:GSSデータ18歳から44歳の成人男女を分析した論文の紹介

2022年11月25日追記 こちらで紹介した論文の最新データが出ています。 https://bedbible.com/sex-frequency-statistics/ こちらがオリジナルデータとなります。ご参照のさいは、こちらをお使いください。 1.概要 性行動の不活発化は、アメリカでも起こって…

プロテスタンティズムの倫理とロマンティックラブの精神:デビッド・ノッター『純潔の近代』の論点整理から

1.近代的主体を構成する原理としてのロマンティックラブ かの有名なプロ倫(『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』)にオマージュを捧げつつ、「プロテスタンティズムの倫理とロマンティックラブの精神」を、現在語るべきだという話をしたいと思…

承認欲求とは何か2:なぜ人はアイドルになりたがるのか

ytakahashi0505.hatenablog.com ( 一応続きだけど、内容的には上記を読んでなくても分かるようになってます。つまり、あんまりつながってない。) 1. 現代の承認欲求について主題的に扱っている本として、 山竹伸二, 2011, 『「認められたい」の正体:承…

承認欲求とは何か(社会心理学講義で喋ったこと+α)

承認欲求について喋った回の内容を書いておきます。 1. とりあえず、承認欲求はマズローらパーソナリティ心理学によって、こう整理されてきました。(下図は『心理学』有斐閣、2013、p.194より引用) 下位の欲求が満たされることで、より上位の欲求が湧い…

合意形成プラットフォームでのフェミ議論とかできたら面白いんだけどなぁ、技術者求む!

合意形成プラットフォームvTaiwanのような仕組みで、現在のフェミニズム的議題をめぐる布置のようなものを描けたら面白いなと思った。 vTaiwanの仕組みの詳しい説明として、こちらがわかりやすい。 https://note.com/a28szk/n/n0c23db878c48 他のSNSと同じよ…

「女性の性的主体化形式」論文の引用文献でオンラインで読めるものまとめ

私の「女性の性的主体化形式」に関する論文の引用文献のうち、オンライン上で読めるものと、その場所をまとめました。 American Psychological Association. (2007). Report of the APA task force on the sexualization of girls, Zurbriggen, Eileen L., C…

女性の性的主体性についての論文を投稿しました。その引用文献の一部を紹介。

(ふわっとした前置き長めです) ラディカルフェミニズムは、現代社会の「男性による女性支配」や「男社会」は性的なもの(セクシュアリティ)を通して完成しているのだと言いました。たしかに、女性を性的対象として捉えたり扱ったりするときには、人や場合…

こういうジェンダー論の教科書がほしい 

ジェンダー論の教科書として、こういう論点がまとまっているものがあればいいのに、と思っていたのだけれどなかったので、自分でレジュメつくった。(2019年度にやった「身体文化論」の授業レジュメのいくつかを公開します) 1.売買春をめぐる現在の世界の…

日本の唯物論フェミニズム(マルクス主義フェミニズム)受容の盲点:ヘテロセクシズム批判という文脈の抜け落ち

マルクス主義フェミニズムとは、1970年代から80年代に登場してフェミニズム理論を形成した一つの思想潮流で、「性支配」の物質的基盤(下部構造)の分析を重視する立場を特徴とする。物質的基盤(下部構造)分析は、おもに経済学的・政治的制度の分析になる…

ポスフェミ基礎文献:三浦玲一(2013)について

三浦玲一, 2013, 「ポストフェミニズムと第三派フェミニズムの可能性:『プリキュア』、『タイタニック』、AKB48」, 三浦玲一・早坂静編著『ジェンダーと「自由」:理論、リベラリズム、クイア』彩流社: 59-79. 1.「新しい左翼」の模索の延長線にあるポス…

ANTや新唯物論によって、社会学理論はどう更新されうるのか:その方向性について

1. 新唯物論とかANTとかをざっくり読みつつ思っているのだけれど、考えるべきは、これらを社会学に持ち込むことで、社会学理論はどう更新されるのか?だ。 例えば、主体/社会構造が循環的にお互いを構成しているというギデンズ流(構造化理論)の「主体/…

フェミニストたちの言う新唯物論について2: ブライドッティ『ポストヒューマン』(2013=2019)第1章まとめ

本ブログ筆者・高橋が、「ポスト」フェミニズムや「ポスト」ヒューマニズムを重視するのは、「ポスト」以下にくっついている「フェミニズム」や「ヒューマニズム」の思想を、新しい時代や社会の状況を踏まえて、練り直す必要があると考えているからです。(…

フェミニストたちの言う新唯物論について

1. ジェンダー、フェミニズム領域において社会構築主義は意義深いものでした。「男/女」という性別をジェンダー(歴史的文化的に構築されてきた性差)とセックス(生物学的性差)に分け、前者を問題にするという形で、性別の脱自然化( denaturalized )…

【論文紹介】「ガールパワーとチックリット」『ポストフェミニズム:文化的テキストと理論』([2009]2018)

Stéphanie Genz and Benjamin A. Brabon, 第1版 2009年、第2版 2018年,Postfeminism: Cultural Texts and Theories の(『ポストフェミニズム:文化的テキストと理論』)中の 第4章 "Girl Power and Chick Lit" (「ガールパワーとチックリット」)の要約翻…

【論文紹介】Sex is Power Scaleについて

Sex is Power Scale(SIPS)というのがありまして、これ重要な気がしています。詳しくいうと、「自分の性は力の源泉だ」(Self-sex is Power Scale(S-SIPS))と「女性一般の性は力の源泉だ」(Woman-sex is Power Scale(W-SIPS))の二つに分かれています…

【論文紹介】誰かの性的客体となることを通した女性たちの性的主体化について

Mindy J. Erchull & Miriam Liss, 2014, "The Object of One’s Desire: How Perceived Sexual Empowerment Through Objectification is Related to Sexual Outcomes", Sexuality & Culture 18:773–788 (=「誰かの性的客体となること:性的客体化を通した性…

【人の論文紹介】伝統的男性役割(5側面)/新しい男性役割(4側面)の心理学的解明

本日の日本女性学会のMLでも、男性役割についての議論が回ってきていますね。 心理学は性別役割についてかなり長いこと(1960年代の英語圏で最初の盛りあがりを見せた)、細かく分節化し、経験的に測定して、議論してきているので、もっとここらへんの知見を…

【翻訳】Cotter, et. al., 2011 「ジェンダー革命の終わり?1977年から2008年の性別役割態度について」

David Cotter, Joan M. Hermsen, Reeve Vanneman, 2011, "The End of the Gender Revolution? Gender Role Attitudes from 1977 to 2008", American Journal of Sociology, Vol.117:259-289. 本文はここから入手できます http://www.vanneman.umd.edu/papers…

【翻訳】Pamela Aronson 2003「フェミニストかそれともポストフェミニストか?フェミニズムとジェンダー関係に対する若い女性の態度」

Pamela Aronson , 2003, “Feminists Or “Postfeminists”?Young Women’s Attitudes toward Feminism and Gender Relations”, Gender & Society 17(6):903-922.(本文はインターネット公開されていないので、お近くの大学図書館で。) 高橋によるこの論文の簡…

【翻訳】Yang, G., 2016, 「ハッシュタグ・アクティビズムにおける語りの主体:#BlackLivesMatterのケース」

Yang, G. (2016). Narrative Agency in Hashtag Activism: The Case of #BlackLivesMatter. Media and Communication, 4 (4), 13-17. ( https://repository.upenn.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1500&context=asc_papers ) アブストラクト ハッシュタグ…

YouGovによる「自称フェミニスト率」世論調査

today.yougov.com YouGovの調査は、毎年だいたい「あなたはフェミニストですか?」という問いに対してYes/No/Not Sureの3つで答えさせています。 その調査によると、2016年よりも2018年の方がアメリカ人のフェミニスト率は増えているという結果がでています…

アメリカのフェミニスト割合(2016年世論調査結果)

www.washingtonpost.com ワシントンポストとKaiser Family Foundationが行った国民世論調査によると、女性の60%、男性の33%がストロングフェミニストもしくはフェミニストと答えているらしい!多い! 日本で同様の調査がやられているのを見たことがないけ…

【翻訳】(Heywood 2005)ポスト・フェミニズムとは

Heywood, Leslie L., 2005, The Women's Movement Today: An Encyclopedia of Third-Wave Feminism, Greenwood.の「ポストフェミニズム」の項目(p.252)の翻訳 https://www.amazon.co.jp/Womens-Movement-Today-Encyclopedia-Third-wave/dp/0313331332/ref=…