ポストフェミニズムに関するブログ

ポストフェミニズムに関する基礎文献を紹介するブログ。時々(とくに大学の授業期間中は)ポスフェミに関する話題を書き綴ったり、高橋幸の研究ノート=備忘録になったりもします。『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど :ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』(晃洋書房、2020)、発売中。

【翻訳】Cotter, et. al., 2011 「ジェンダー革命の終わり?1977年から2008年の性別役割態度について」

 David Cotter, Joan M. Hermsen, Reeve Vanneman, 2011, "The End of the Gender Revolution? Gender Role Attitudes from 1977 to 2008", American Journal of Sociology, Vol.117:259-289.

 本文はここから入手できます http://www.vanneman.umd.edu/papers/cotterhv10.pdf

 

ひとことで言うと、アメリカの性別役割意識は一貫して弱まってきたわけではなく、1994年から2000年の間に、一時、性別役割意識が強まった時期があったよ、ということを指摘した論文。

 

アメリカのジェンダーバックラッシュは1980年代レーガン政権誕生期に起こっているのだけれど、その15年後の90年代中盤に、性別役割が支持されるという第二波フェミニズムの主張に逆行する動きがみられた、という話。

ちなみに、私はこれが「ポストフェミニズム」現象なのではないかと思っている。「I'm not a feminist, but...」と言う女性たちについて論じたポストフェミニズムの論文はこのあたりの時期を対象にしているものが多いので。(コッターは別にこの現象を「ポストフェミニズム」と呼んでいるわけではない。)

 

この論文は、永瀬圭・太郎丸博(2014)や、佐々木(2012)などでも言及されており、けっこう重要。

・永瀬圭, 太郎丸博, 2014, 「性役割意識のコーホート分析 --若者は保守化しているか
?」『ソシオロジ』58(3):19-33.(https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/185141/1/sociology_58%283%29_19.pdf 

・佐々木尚之、2012、「JGSS 累積データ 2000-2010 にみる日本人の性別役割分業意識の趨勢 ―Age-Period-Cohort Analysis の適用」『日本版総合的社会調査共同研究拠点 研究論文集』 12(JGSS Research Series No.9)), pp.69-80 ( http://jgss.daishodai.ac.jp/research/monographs/jgssm12/jgssm12_06.pdf 

 

 

 では、ちょっと丁寧に中身を紹介。

データ:General Social Survey(アメリカ合衆国の居住者で18歳以上の成人が対象)

 わかったこと:

1995年以降、ジェンダー平等志向の停滞(stagnation)や逆転(reversal)が見られる。

ベビーブーマー世代以降、コーホート間の差異は小さくなっており、95年以降、 コーホート置換によるジェンダー平等志向がもたらされなくなっている。

・1995年以降、ほとんどすべてのコーホートの男女、すべてのエスニシティアジア系アメリカ人を除く)、すべての教育レベルと所得レベルの層において、ジェンダー平等志向の停滞が見られた( Cotter et al., 2011:260)。

 

→したがって、すべてのコーホートが影響を受けるような社会文化的構造的な変化があったと考えられる。具体的には…

 

1)「ポピュラーカルチャーにおけるアンチフェミニストバックラッシュ」(ibid, 260)と、
2)1990年代後半の男性の所得(men’s earnings)の上昇による、妻の労働力化圧力の低下

アメリカでは、1960年代以降はじめて1990年代後半に、男性の所得上昇が家族世帯所得の中央値を押し上げており、それゆえ、母親の子育てが再度強調されたと考えることができる。90年代アメリカでは「母性神話(Mommy Myth)」や、“intensive motherhood”(Hays 1996)などが流行語になっていた(ibid, 264)。

 

原理主義エバンジェリカンは、保守的なジェンダーイデオロギーを支持していることが知られているが、GSSデータによれば、これらの宗教的な変化はゆっくりとしたものであり、1990年代の回転(turn around)を説明するものとはなりえない(ibid, 263)。

 

・1970年代から80年代には、人口全体の教育レベルの上昇が平等主義傾向を促していた。しかし、1990年代はゆっくりではあるが教育レベルが上昇し続けているのに対して、平等主義傾向は逆転した。教育レベルとジェンダー平等志向は連動しなくなっている(ibid, 263)

 

 

以下のグラフを見ると、1994年から2000年にかけて、平等志向が右肩上がりにならず、停滞していることが分かる。 

 

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【GSSデータに見るジェンダー態度の変化:1977-2008年(Cotter et al.2011:261より引用)】

*「強く同意と同意、強く非同意と非同意をそれぞれ足しあわせている。「わからない」は、「非平等主義(not egalitarian)にコード化。