ポストフェミニズムに関するブログ

ポストフェミニズムに関する基礎文献を紹介するブログ。時々(とくに大学の授業期間中は)ポスフェミに関する話題を書き綴ったり、高橋幸の研究ノート=備忘録になったりもします。『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど :ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』(晃洋書房、2020)、発売中。

00年代東浩紀再考(おまけ)恋愛=実存と思想の連関

おとといからやっている、東浩紀を読み直す作業で発見した、おまけみたいなもの。
 
思想と恋愛(実存の問題)のつながりについて、けっこう私的には示唆的だったので、共有します。私は昨年、現代の若者の恋愛観とか草食化とか、草食化した後の異性愛関係としての添い寝フレンドとかについて論文を書いたのもあって(先週三校を終えたところ、そのうちアップします)、恋愛って何なんだろうかということを考えています。
 
恋愛というテーマは下世話にも面白いけど、実存とシンクロするところがあり、そして「個人的なものの領域」(プライベート)の主要な部分を占めるものだったりもするので、思想的な深みをもたせた議論の展開も可能。恋愛論ってありだな、とこの数年思っています。ジェンダー論にもリンクさせられる主題だし。
 
以下で引用する部分は、東さん、ちゃんと「仕事」してますなーっていう箇所でもある。
 
『コンテンツの思想』(東浩紀、2007、青土社)より引用。

2004年8月11日、新海誠が『ほしのこえ』で一躍有名になり、次の作品『雲の向こう、約束の場所』の公開を目前に控えている段階での、 新海誠西島大介東浩紀の鼎談。

 
東が、新海の作風って、よく言えば「これまでのオタク的な教養の重みから自由に作品を作っているって感じだよね」(大塚英志が新海作品に拒否反応を示すんじゃなくて、評価したってなんか不思議だよね)といった話をした後で、でも、新海さんの作品って、なんか「だだもれ」な感じで恥ずかしくないの?というふうに話が進んできたところ、です。
 
新海:『猫』(『彼女と彼女の猫』)に関していえば、ちょっとプライベートな話になってしまいますけど、その時ちょっといいなと思っていた女の子がいて、その子に見せたかったんですけどね。
 
東:それは、つまり、『猫』と『ほしのこえ』で声をやられている方?それとも違う人ですか?(笑)
 
新海:まぁ詳しく話すとめんどくさくなるんですけど、あの映像は、ラブレターとして機能させたかったので、恥ずかしくなってしまうのは仕方がないんですよね。それとは別に、それを売ってある程度お金を入れたいっていう気持ちもありましたし、それから、ルサンチマンみたいなものもありました。…そういう自分の表現の欲求とプライベートをごっちゃにして、うまいかたちでバランスをとって出したものなんです。
 
東:そういう点では、自分の感情をストレートに出しているわけではない。ところで、ラブレターとしては成功したわけですよね。
 
新海:話をそらしたくなってきましたね(笑)。でも、西島さんはそういうふうに作品を使ったことはないんですか?『凹村戦争』でも、奥様と娘さんへの謝辞が書かれていますよね。
 
西島:わ、ばれてますね。あれは結婚した時の唯一の約束なのです。
 
新海:東さんはどうですか。ご自分の感情が少なからず仕事のモチベーションに直結していたりとかはしないんですか?
 
東:直結してますよ。ただ、思想とか哲学という関係上、新海さんのようにはなっていませんね。抽象化することで守っているんですよ。
 
西島:なにをですか?プライベートをですか?
 
東:僕の場合は、写真を出したくないとか、家族構成の情報を出したくないとか、そういう点でプライバシーを守ろうという意志はあまりないんですが、感情の動きをそのままダイレクトに言葉にするのは嫌なんですね。
それをのぞけば、僕の仕事はかなりダイレクトに実存的な悩みとつながってますよ。例えば『存在論的、郵便的』という本がありますが、あれは要は、他人を「単独的」に理解するとはどういうことなのか、つまりは愛するとはどういうことなのかという動機で始まったようなものです。そして実際、あれを書いていた時は僕はずっと一人の女の子と付き合っていて、にもかかわらず相手を愛しているかどうかわからない不安定な状態で悶々としていたわけですね。だからも、自分で読み返すと、そのまんまです。
 
西島:おお、みんなやっていることなんですね。ステキだ。
 
(『コンテンツの思想』(東浩紀編、2007:57-59)   

 

うん、なんていうかニヤニヤしていただければ。

実存と絡んだ思想こそ、ひりひりしたものがあって魅力的ですよね。

 

 

私は、『猫』を↓のアマゾンで見ました。『ほしのこえ』と同時配信になっています。

新海作品のたまらなくよいところは、抒情性(だだもれ感)とテンポの良さだと私は思っています。それはずっと初期から一貫しているんだなーということがわかる、良い作品です。