ポストフェミニズムに関するブログ

ポストフェミニズムに関する基礎文献を紹介するブログ。時々(とくに大学の授業期間中は)ポスフェミに関する話題を書き綴ったり、高橋幸の研究ノート=備忘録になったりもします。『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど :ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』(晃洋書房、2020)、発売中。

被災経験の共同記憶化に関する一考察:『東北通信』No.1(高橋幸)

~~~ 石巻に来て1年。住みながら色々見聞きしたことをもとに、つれづれなるままに書き留めてみようかなと思って書き始めます、東北通信。個人プロジェクトです(所属等とは関係ありません)。 ~~~ 東日本大震災の「被災地」である沿岸の各地域ではしっ…

「アイポリだからダメ」という批判は底が浅すぎるのでは、という話—ネグリ&ハート『アセンブリ』第4章のポピュリズムに関する議論の検討から

ytakahashi0505.hatenablog.com ytakahashi0505.hatenablog.com 上記の続きですが、このエントリー単独でも読めます。 引き続き、読んでいる本はこれです。 「階級闘争かアイポリか」から「再分配か承認か」へ(フレイザー&ホネット) " data-en-clipboard=…

ドゥルーズ=ガタリは「欲望」をどのように理論化しているのか——欠如モデルとは異なる欲望機械モデル

「欲望の欠如モデル」ではなく「欲望機械モデル」へ ドゥルーズ=ガタリが『アンチ・オイディプス』で提示した欲望のモデルは、「欠如によって駆動される欲望」ではなく、欲望機械の作動として欲望を捉えるものである。この点がとくに重要だと思っているので…

<コモン>は近代の「所有」概念をどう組み替えるのか——『アセンブリ』第2部「社会的生産」の骨子まとめ

ytakahashi0505.hatenablog.com からの続きですが、本記事だけ読むこともできます。読んでいる本はこれです。 個人単位の私的所有から社会的所有へ <コモン>とは社会的富の共同統治を目的とするものである。したがって、<コモン>の議論は、個人が持って…

ネグリ&ハートの『アセンブリ』(2017=2022)まとめ—左翼たちよ「棘を抜いて傷を癒そう」

アセンブリ 新たな民主主義の編成 作者:アントニオ・ネグリ,マイケル・ハート 岩波書店 Amazon どんなテーマを扱っている本なのか アラブの春、ポデモス(スペイン)、シリザ(ギリシャ)等々の顛末をみながら、これからの左翼運動のあり方を真剣に、最前線…

【ミスコンに関する取材をしてくださる方へのお願い】

1)私はすでに以下のような論考を書いたり、コメントをして記事にしていただいたりしていますので、まずはこちらをお読みになった上で、取材のためのご連絡をいただけますとありがたく思っています。どうぞよろしくお願い致します。 ・末尾の「~~」以下を…

「ポルノ規制派フェミニスト─対─表現の自由派」の二分法を越えて─2022年日本女性学会大会シンポジウム「ジェンダー化さ れた表象とフェミニズム」の感想(高橋 幸)

2022年日本女性学会大会シンポジウム「ジェンダー化された表象とフェミニズム」(パネリスト:吉良智子、田中東子、前之園和喜, コーディネータ:古久保さくら、荒木菜穂)に対する高橋幸の感想を掲載します。 『学会ニュース』(日本女性学会, The Women’s …

親密なパートナーからの被支配感は男性の方が高いけど、それが精神的健康に影響しにくい

親密なパートナーからの被支配感は「(異性愛)男性」の方が「(異性愛)女性」より高いが、 「それは精神的健康に影響しにくい」(p.137)という研究結果が重要な気がしたので、メモ+紹介。 被支配感は次の尺度で測定されています。 上野淳子, 2021,「<研…

ルーマンの『情熱としての愛』まとめ

" data-en-clipboard="true"> 最近また読み直したので、まとめておこうかなと思い立ちました。ページ数は木鐸社版の『情熱としての愛』(2005、佐藤勉・村中知子訳)です。 1.ゼマンティク分析とは " data-en-clipboard="true"> ルーマンがこの本でやって…

「効率のいい恋愛」という新たな経験の諸相 ——マッチンググアプリ利用者調査2022の結果から(2)

2023年度日本社会学会 大会報告用 要旨です。石原さんとの連携報告で、第一報告の内容も読まないと良く分からん…?というところもあると思うのですが、とりあえず、文責が自分にあるものだけアップします。 「効率のいい恋愛」という新たな経験の諸相 ——マッ…

【研究計画】石巻圏域居住者へのワークライフバランスに関するインタビュー調査

公益財団法人石巻地域高等教育事業団からの助成金であるIK研究の助成に採択されました。以下の研究を今年度、実施する予定です。該当する方で研究に協力してくださる方を大募集中です。インフォーマントの紹介もどうぞよろしくお願い申し上げます。 研究テー…

5月5日はお誕生日なので......

今日、無事40歳を迎えることができました。これまで支えてくださったみなさん、どうもありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いします。 大学生の頃と比べて文化作品との接し方が変わったなぁということを、ここ最近、けっこう繰り返し、いろ…

大塚明子『『主婦の友』にみる日本型恋愛結婚イデオロギー』(2018、勁草書房)まとめ

個人的に面白かった点や「発見!」だった点を中心に(というか、ほぼそこだけを)まとめます。 大塚さんが分析対象にしている『主婦の友』というのは、戦前から発行し続けている女性三大誌の一つで、最も庶民性(ポピュラリティ)が強く*、最も売れていた雑誌…

東浩紀の『観光客の哲学』をどう批判的に継承していけるかまとめ1

1. 『ゲンロン0 観光客の哲学』を楽しく拝読したので、内容まとめと感想をまとめておいて、今後なにかの時に使おうと思います。 東がここで提起している議論は、自分勝手な個人の楽しみを主要な目的としてなされる観光(消費+ふらふら歩き)によって発生…

【博論要約】ポストフェミニズムから見る第二波フェミニズムの理論的限界 —20世紀末から21世紀初頭の日米におけるジェンダー革命および性革命の質的変容—

ポストフェミニズムから見る第二波フェミニズムの理論的限界 —20世紀末から21世紀初頭の日米におけるジェンダー革命および性革命の質的変容— 目次 序章 第一部 ポストフェミニズム 第1章 ポストフェミニズム論とは何か——先行研究の整理 第2章 #WomenAgain…

カルチュラル・タイフーンでのグループ発表「第四波フェミニズムの論点」の趣旨説明

カルチュラル・スタディーズ学会大会であるカルチュラル・タイフーンでのグループ発表「第四波フェミニズムの論点」のオーガナイザーを務めさせていただくことになりました。趣旨説明の文章を載せます。 第四波フェミニズムの論点 2010年代後半から起こって…

社会学界隈における東大話法がマイノリティ排除的なのではないかという問題についてのメモ

(東大の)社会学系の先生から院生へハビトゥスのような形で伝えられ、そして院生同士でなされるコミュニケーションの特徴として、相手の議論を打ち砕いたり、破ったり、穴を突いたりすることに重きが置かれ、「結局のところ、こういうことでしょ」というこ…

『ジェンダー事典』の「フェムテック」項目の草稿→非公開にしました

*こちらのコメント受付期間は終了しました。 今度、発行される『ジェンダー事典』の「フェムテック」項目の草稿です。フェムテック等に関して詳しい方がいらしたら、ぜひコメントをください。 これは私が書いた草稿を色々な方に検討していただくために掲載…

最近の仕事(オンラインで読めるもの)

文春オンラインさんに載せていただいたジェンダーギャップ指数に関する解説記事。頑張りました。 bunshun.jp bunshun.jp 沖縄タイムス 2023年12月17日 記事「美の価値観 押し付けないで」 「外見」や「見た目」をめぐるさまざまな生きづらさの事例を記事とし…

「レズビアン・ファルス」の可能性について:ジュディス・バトラーの『問題=物質となる身体』序文~第2章のレジュメ

横浜フェミニズム研究会で今日報告させていただいたレジュメをアップします。 バトラーによるレズビアン・ファルスの構想、重要。 どこまで使えて、どこは使えないのかをまとめました。 https://drive.google.com/file/d/1LeER5E2gf-zGCSForM5ZBENgLrcev6Zp/…

レヴィナスの二つの正義(責任)(現代思想論文で十分に議論を展開できなかったけど、大事だと思っていること)

『現代思想』(2021年9月号)の「ジェンダー平等な恋愛にむけて」という論考で、紙幅と論旨の関係上、私はレヴィナスの女性論を「セクシズムである、以上」としてぶった切ってしまったのですが、実際には、レヴィナスはその女性論に限って言っても重要な思想…

GICセミナーでの講演内容のまとめ(高橋幸)

昨日の私の話を、骨格だけ取り出すと次の2点にまとめられます。 (1)ジェンダーニュートラリティを基本とする雇用機会均等法の原則と、ダイバーシティ(ジェンダーによる違い価値創造の源泉として使おうとするもの)は、原則レベルでの齟齬がある。それゆ…

KADOKAWAが女性向け自己啓発+恋愛論なかんじの本を大量に出している件について

なんかすごい文献群を発見してしまった。女性向け、女性ライター(ついったらーやYoutuber)が書いている日常エッセイの体裁を取った自己啓発と恋愛指南書がまじったかんじの本を、KADOKAWAが大量に出している。 だいたい2017年から始まっていて、2021年現在…

恋愛の主客のジェンダー非対称性の論理的前提となっている「女性は存在そのものとして価値がある/男性にはそのような価値はない」というジェンダー非対称性についてのあれこれ

ytakahashi0505.hatenablog.com の続き。恋愛においてはなぜか男性が「手を出す」/女性が「手を出される」というように、男性が主体で女性が客体であるかのように表現されるという社会的事実があるということを見てきました。これがどういう意味論をなして…

恋愛に性別役割は必要か? 

1 なぜ「男は『手を出し』、女は『手を出される』」という慣用表現が成りっているのか ジェンダー論関連の授業を大学やっていると、「異性愛的な恋愛や性の場面でよく言われる『手を出す/手を出される』や、『お持ち帰りする/お持ち帰りされる』という主…

「枕営業されること」とか「女子割」とかについて:女性向け記事サイトの記事に関するメモ

女性向け記事サイトが充実しておりますよね。 そこで今日収集した、興味深い話をまとめておこうと思います(メモ代わり)。 telling.asahi.com 「おっさんたちにすれば純愛のつもりかもしれないけど、女の方が立場が下なんだから断れるわけない。偉くなった…

プロテスタントにおけるロマンティックラブとは何なのかまとめ

1. ytakahashi0505.hatenablog.com 前回、ノッターさんのご著書を論点整理しながら、欧米のプロテスタントたちが確立した狭義の意味での「ロマンティック・ラブ」が日本において成立したことはなかったということを論じてきました。 今日は、その狭義の意…

『アイドルになりたい』(2017、中森明夫ちくまプリマ―新書)の問題点

アイドル幻想を少女に押し付ける大変に気持ち悪い本:『アイドルになりたい』(2017、中森明夫、ちくまプリマ―新書) 私は基本的に、露骨な批判は書かない人なのですが、これはあまりにも問題なので、指摘しておいた方がいいような気がしました。 問題点は、…

本『性的モノ化とは何か(仮)』の趣意書  

なぜ性的モノ化をテーマにした論文集を企画するのか この数年間で、オンライン上のフェミニズムである「第4波フェミニズム」が登場し、存在感を増してきている。第4波フェミニズムのなかの中心的論点の一つとなっていると考えられる「性的モノ化」を主題とし…

ナオミ・ウルフ(2012=2014)と新しい唯物論フェミニズム

ところで、ナオミ・ウルフ(2012=2014)読まれました? 書名だすと通報される可能性があるので書きませんが。私は今、大学生の性調査を並行してやっているところなので必読文献の一つとして読んだのですが、思わぬ収穫あり。意外にもここで「あぁ新しい唯物…