ポストフェミニズムに関するブログ

ポストフェミニズムに関する基礎文献を紹介するブログ。時々(とくに大学の授業期間中は)ポスフェミに関する話題を書き綴ったり、高橋幸の研究ノート=備忘録になったりもします。『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど :ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』(晃洋書房、2020)、『恋愛社会学』(ナカニシヤ出版、2024)発売中。

アメリカにおける性行動の不活発化:GSSデータ18歳から44歳の成人男女を分析した論文の紹介

2022年11月25日追記

こちらで紹介した論文の最新データが出ています。

 https://bedbible.com/sex-frequency-statistics/

こちらがオリジナルデータとなります。ご参照のさいは、こちらをお使いください。
 

1.概要

性行動の不活発化は、アメリカでも起こっています。

Peter Ueda, Catherine H. Mercer, Cyrus Ghaznavi,  Debby Herbenick, 2020, "Trends in Frequency of Sexual Activity and Number of Sexual Partners Among Adults Aged 18 to 44 Years in the US, 2000-2018", JAMA Network Open. 2020;3(6):e203833. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.3833

 

この論文では、GSS(General Social Survey)の2000年から2018年のデータを分析。

これまでも、2000-2014年のGSSデータ分析から、若い世代ほど性行動が不活発化しているということが指摘されてきていた。
20-24歳時で、セックスパートナーがいないと答えた人の割合は、

1965年から69年に生まれた人(以下出生コーホートと呼ぶ)の6.3%、

1970-79年出生コーホートの11.5%、

1980-89年出生コーホートの11.7%、

1990-94年出生コーホートの15.2%と、若い世代ほど増えている。

このような動向を受け、アップデートされた2018年までのGSSデータを分析したのがこの論文。結論から言うと、

性的不活発が増大している。18歳から24歳の男性の3人に1人が、この1年間に性行動(sexual activity)がなかったと答えている。また、25歳から34歳の男性と女性の両方で、性的不活発が増大している。
This survey study found that from 2000 to 2018, sexual inactivity increased among US men such that approximately 1 in 3 men aged 18 to 24 years reported no sexual activity in the past year. Sexual inactivity also increased among men and women aged 25 to 34 years. These findings may have implications for public health. 

2.詳しく解説

まず、性行動を何で測定しているかというと、性的頻度と性的パートナーの数。
性的頻度:過去一年の性行動(sexual activity in the past year):過去12か月でどれくらいセックスしましたか?( “About how often did you have sex during the last 12 months?” )

回答を、以下の4つに分類して分析。
(1)まったくない(“not at all”)から、
(2)年に1~2回
(3)月に1~3回
(4)週に1回かそれ以上

性的パートナーの数: “How many sex partners have you had in the last 12 months?”

回答を、以下の4つに分類して分析。

(1) 一人もいない
(2) 1人
(3) 2人
(4) 3人以上

 分析結果

2000年-2002年と、2016年-2018年を比較すると、18歳から24歳の男性で、この1年間に性行動がまったくなかったとした人が、18.9%から30.9%へ上昇(およそ3人に1人)。女性においては大きな変化は見られない。

25歳から34歳の男女においても小さな減少が見られた (男性7.0%→14.1%、女性7.0%→12.6%)が、35歳から44歳には変化が見られない。

性的活発層は減少している。すなわち、性的頻度が「週に一回かそれ以上」と答えた人の割合は、男性25‐34歳で65.3%→50.3%、女性25-34歳で66.4%→54.2%と減少。

セクシャルパートナーが1人と答えた人の割合も減っていて、男性18-24歳で44.2%→30.0%、女性25-34歳で79.6%→72.7%。この減少はとくに未婚男性で起こっている(未婚男性18-44歳が16.2%→24.4%)。

ただし、既婚男女の性的活発性も低下していて、既婚男女で性的頻度が「週1回かそれ以上」と答えた人も減少している(既婚男性 71.1 %→57.7%、既婚女性69.1%→60.9%)。

所得別で分析すると、低所得男性は、高所得男性や女性より、性的に不活発になっている。

 

3.感想(高橋コメント)

・既婚男女の「週1回かそれ以上」の人の割合が低下しているとはいえ、およそ60%程度だということが、日本文化圏に生きる我々にとっては衝撃的だったりする点です。

・このような論文を読むと、ネオリベによる中間層の解体は、経済的領域における不安定性・底辺化だけでなく、「家族」や性愛などの親密な関係性からの排除を伴っていたのだということが露骨に見えてきます。この点について真剣に考える必要があります。

アメリカのデータでも、日本と同じような若者の性行動の不活発化が見られ、このことはどうやら2000年代から指摘されてきているようで、このあたりについての論文もこの後、まとめてご紹介する予定です。