科研基盤研究(C)「性に関する若者のインタビュー調査ー人権とジェンダー平等の観点から」(JP21K12511)の共同研究の報告です。平山満紀、大倉韻、アリス・パッハー、木村絵里子、 高橋幸の順で報告しまして、私は最後の5番目です。
「大学生と語る性2021-2024」インタビュー調査(5)
——「性的な関心がない」とはどういうことか?——
高橋幸
1 目的
2000年代後半から顕著になった高校生・大学生における「性的関心がない」という態度の増加は,友人との性についての会話の少なさやポルノ視聴経験の少なさという行動に加えて,「性・セックス」に対する悪感情(楽しくない・汚い)と関連していることが指摘されてきた(林編2018).
ただし,「性的関心がない」人のなかには,他者に性的に惹かれない性的指向であるアセクシュアルの人も含まれており,この場合,性的無関心と悪感情は独立である(つまり性への悪感情を持っているから性に関心を持たないのではなく,端的に関心がないのだ).2023年の全国調査で「アセクシュアル・無性愛者」は0.9%,性的指向を「決めたくない・決めていない」は5.6%であった(釜野ら2023).
したがって,性的無関心については,悪感情によるものと性急に思いこむことなく,本人がそれをどのように捉えているのかを丁寧に見ていく必要がある.本報告では「性的関心がない」と語る13人の語りを中心に分析し,その様相を明らかにする.
2 分析データ
上記の13人をジェンダー別にみると,女性11人(女性全体の33.3%),男性 1人(男性全体の4.5%),NB 1人(NB全体の20%).フェイスシートに本人が記入した性的指向別にみると異性7人,パン1人,アセクシュアル1人,「わからない」2人,「不明」1人,「こだわりがない」1人(性的関心がないのに性的指向が回答できている8人は,恋愛的指向を答えたことがインタビュー内で判明).
3 分析結果
「性的関心がない」と語った全員に性交経験がなく,性的に興奮したり性的快楽を感じたりしたことがなく,女性2人を除く11人はマスターベーションをしたことがなかった.しない理由は「必要性を感じたことがないから」であり「それをどうやるのかがわからないし友達から聞いたりもしない」からである.性的関心がないことに対しては「自分らしいと思う」,「いまは自分のこと(勉強やサークル等)を優先したい」と語りつつも,将来のライフスタイルの見通しの立たなさに対する不安を語る人が多かった.
性(具体的には「性交」および「異性」存在)への恐怖や嫌悪を語ったのは6人で,残りの7人には恐怖・嫌悪に該当する表現は見られなかった.恐怖・嫌悪は性的関心や性交経験がある人にも見られる.小・中学生期に異性友人集団から外見を嘲笑されたりイジメられたりした経験と自分の性的恐怖・嫌悪を関連づける語りが複数人から聞かれた.パブリックスペースでの性被害(チカン等)は女性を中心にあまりにも多くの人が受けているため,この有無と恐怖・嫌悪の有無の集団は重ならない.また,恐怖・嫌悪を持つ層をはじめとした多くの人が学校の性教育で「もっと具体的なことを知りたかった」と語った.
4 結論
「性的関心がない」と語った人のなかで性的恐怖・嫌悪を語った人は半数程度であった。今後さらにアセクシュアルについての社会的理解を深めていく必要があるが,それと同時に社会的「問題」として議論すべきは性的無関心そのものというよりも性への恐怖や嫌悪である。恐怖・嫌悪に対しては,全ての人への生理・射精教育,性関係教育(relationship education),性交の説明等を組み込んだ包括的性教育の充実が有効であると考えられる.
文献
釜野さおり他,2023,「家族と性と多様性にかんする全国アンケート」結果概要.
林雄亮編,2018,『青少年の性行動はどう変わってきたか』ミネルヴァ書房.