ポストフェミニズムに関するブログ

ポストフェミニズムに関する基礎文献を紹介するブログ。時々(とくに大学の授業期間中は)ポスフェミに関する話題を書き綴ったり、高橋幸の研究ノート=備忘録になったりもします。『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど :ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』(晃洋書房、2020)、発売中。

アメリカの10代の性行動の消極化は1990年代から継続中:NSFGデータ分析の報告書から

1. 

ytakahashi0505.hatenablog.com

の続きです。

とりあえず、アメリカの疾病対策予防センター(center for disease control and prevention, CDC)のnational center for health statistics(NCHS)がやっているNational Survey of Family Growth(NSFG)の報告書を精査しました。これは、日本の国立社会保障・人口問題研究所がやっている「出生動向基本調査」みたいなものですね。

名前的には日本の「全国家族調査(National Family Research of Japan, NFRJ)」と近そうですが、調査設計や調査目的が異なります。NFRJはパネル調査とかもやっており、未婚者はカバーせずに高齢者をカバーする方向でやっているし、なによりNFRJは性行動の質問項目が入っていない。

それに対して、アメリカのNSFGは調査対象者を15歳から44歳の男女に設定していて、性行動関連をがっつり聞いており、未婚者/既婚者に分けて分析している。ので、日本の「出生動向基本調査」の方により近い。アメリカのNSFGの方が性行動に関する質問項目の充実具合が半端ないのですが。例えば「同性との性的経験はありますか?(行動や経験を聞く項目)」、「sexual attractionを誰に感じますか(欲望のあり方を聞く項目)」、「ゲイ/レズビアンですか?(アイデンティティを聞く項目)」の3つを分けて聞いています。性交もvaginal intercouse/anal/oralを分けて聞いています。

 

それから、NSFGのすごいのは、1回の調査のサンプル数が1万とかの規模で、これを対面インタビュー調査法をやっているということ。予算規模が違うぜアメリカ……すげー(インタビュー法に切り替わったのは2006年の調査から。インタビュイーは女性で、家庭訪問してインタビューしている)。性行動などのようにセンシティブな内容も多いのになぜ対面インタビューなんだろうと思ったのだが、分岐が多く、自分で答えてもらうとミスが多くなるからみたい。回収率は、約69%とな。

 

さらにもう少し、出典:NSFG - About the National Survey of Family Growthに基づいて、NSFGとは何かという点の細かいこともきちんと書いておくと、NSFGは、pregnancy and births, marriage and cohabitation, infertility, use of contraception, family life, and general and reproductive healthに関する情報を集めています。

1973年に調査が始まり、当初は結婚経験のある15歳から44歳の女性のアメリカ市民を対象にしていましたが、1982年調査から結婚経験に関わらない15-44歳の女性に調査対象を広げ、2002年調査から15-44歳の男性も調査対象になりました。

2006年調査から数年かけてインタビュー調査に切り替えており、調査名の表記法も変わります。2015年調査からは、年齢を15歳から49歳の男女に広げています。

  • Cycle 1 (1973): 9,797 ever-married women aged 15-44
  • Cycle 2 (1976): 8,611 ever-married women aged 15-44
  • Cycle 3 (1982): 7,969 women aged 15-44 (regardless of marital experience)
  • Cycle 4 (1988): 8,450 women aged 15-44
  • Cycle 5 (1995): 10,847 women aged 15-44
  • Cycle 6 (2002): 12,571 respondents aged 15-44 (7,643 women and 4,928 men).
  •  2006-2010 NSFG:22,682 respondents aged 15-44 years (10,403 men and 12,279 women)
  • 2011-2013 NSFG: 10,416 respondents aged 15-44 (5,601 women and 4,815 men)
  • 2013-2015 NSFG: 10,205 respondents aged 15-44 (5,699 women and 4,506 men)
  • 2015-2017 NSFG: 10,094 respondents aged 15-49 (5,554 women and 4,540 men)
  • 2017-2019 NSFG: 11,347 respondents aged 15-49 (6,141 women and 5,206 men)

ってな感じです。

2.

さて、ここでは、15歳から19歳の性行動を分析した報告書の内容をまとめます。

結論から言うと、1973年の調査開始以降、10代の性交経験率が最も高かったのは1988年で、それ以降10代の性交経験割合は男女ともに下がり続けている。とくに、男性の低下率が大きい。

まずは、1980年代から90年代のあたりを見てみましょう。

Department of Hearth and Human Services, 2002, "Sexual Activity and Contraceptive Practices Among Teenagers in the United States, 1988 and 1995",  Vital and Health Statistics, Series 23, Number 21. 

https://www.cdc.gov/nchs/data/series/sr_23/sr23_021.pdf から引用すると、

調査年時に15-19歳で、調査年時までに性交をしたことのある人の割合の推移。1988年に男性76%、女性51%をマークし、それ以降低下していきます。下図はp.9より引用。

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*上記の男性のデータは、別の調査National Survey of Adolescent Males
(NSAM)からとってきているとのことです。NSAMは、15-19歳の男性を調査対象にして1988年に始まり、1995年にNSFGの女性の性的行動質問項目に合わせて修正された。(男性の1979年のデータがどこから出てきたものなのかは、よくわからない…。)

全体でみると、15-19歳の性交経験のある人の割合は1988年に55.9%だったが、1995年に52.3%に減少(さっきの報告書のp.8)。人種別にみると、とくに白人10代で減少が顕著。白人男性が57%から50%へ、白人女性が50%から49%へ(ヒスパニックの女性だけは例外的に1995年時点で上がっている)。

誰が10代の性交を経験しにくいかというと、

・母の学歴が高い(母親が16年以上の教育を受けている)家庭、母が10代で子どもを産んでいない家庭、二人親家庭の子。
・10代で性交を経験しやすいのは、シングルペアレントの家庭やステップペアレントの家庭や、他のタイプの家庭の子(p.9)。

プロテスタントだったり、宗教的なサービス(おつとめ)に定期的に参加している人は、そうでない人たちよりも性交経験率が低くなっている。

・留年等をしている人(behind in school)も性交を経験しやすい。2学年以上遅れている人や卒業できずに学校を去った女性の71%が性交を経験、そうでない(on schedule)女性の経験率は47%。同じくbehind in schoolの男性の性交経験率は86%、on scheduleの男性の経験率は53%(いずれも1995年時点)。

 

●13歳以下で初交を経験する人の割合が微増しており、またより遅く経験する人の割合も増えている。15-17歳で経験よりも18-19歳で初交の人が増加。ここから、この報告書では、「性交に関する年齢規範の解体(”decomposing’’)が起こっている」と分析しています。

 

次に、2002年までの変化を見ます。

Teenagers in the United States: Sexual Activity, Contraceptive Use, and Childbearing, 2002. Series 23, Number 24. 

https://www.cdc.gov/nchs/data/series/sr_23/sr23_024.pdf

によると、性交経験率は、以下の通り。2002年で、男女の経験率が反転し、女性の性交経験率の方が高くなったことが分かります。

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10代はyounger teen(15-17歳)と、older teen(18-19歳)に分けて分析されているのですが、男性の15-17歳で12%低下、18-19歳で11%低下。人種別にみると、男性においては、ブラック>ヒスパニック>白人の順で、低下率が大きい(もともと、黒人の方が経験率は高かったが。)

*CDCの the Youth Risk Behavior Survey (YRBS)のデータでも1991年から2003年にかけて、学生の性交経験者割合が劇的に減っていることが確認できるとのこと。(引用されていた報告書は  Centers for Disease Control and Prevention. Youth Risk Behavior Surveillance—United States, 2003. Surveillance Summaries, May 21, 2004. MMWR 52(SS-2). 2004.  PDF版はこれ https://www.cdc.gov/mmwr/PDF/ss/ss5302.pdf )見に行ったけど、経年比較はしてくれていないので、毎年のデータを集めて自分で経年変化を核にするしかなさそう。

 

10代の性行動の消極化の話を続けます。ところで、英語で消極化negativizationとかいうような言い方はせず、もっぱらactive/inactive(活発/不活発)と言われているようです。ただ、active/inactiveと言うときには、だいたい一定の期間内に一定の頻度で誰かと性交しているか否かを指すことが多い(この報告書ではその用法が一番多い)。

そもそも、日本のように性交意欲が減退する、性交関心が低くなるというようなことが想定されてもおらず、測定もされていないので、activeがこういう意味になるのだと思われます。

で、その性交頻度(activeか否か)ですが、例えば10代の性交頻度はこういう感じになっている。

15-17歳でこれまでに性交をしたことがある人は30%、過去12か月に性交した人は26%、過去3か月にした人は22%、過去に1度だけした人は4%。

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それから、15-19歳の人のうち、過去1か月における性交回数も聞いており、無しが多いのだが、4回以上(週1回以上)という人の割合は女性の方が多くなっていて、一定割合いる(それにしても細かい質問項目だね)。

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このデータだけでは、性交頻度経年でどう変化しているのかはわからないので、他の年度のと突き合わせてみていく必要があります……すいません、今度やります。

 

もう少し、この2002年調査の結果を見ていくと、下図のように、セクシャルパートナーの数に関しては、男女差はほとんどないのだが、

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18歳から24歳(急に分析対象の年齢が変わった)の男女において、最初の性交時にどれくらい「したかった」ですか?という質問に対しては、「したくなかった(けどした)」と答える割合は女性が多く、「したかった」と答える人は男性が多いという非対称性があることがわかります。性的欲望を自らのものとして持てるか否かをめぐる10代の男女間での非対称性があることが分かる。

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以上のように見てくると、「性的不活発化」といった時に、それを測定する指標はいくつかあって、NSFGでは、

性交経験率:一定の年齢時に性交経験があるか否か

初交年齢:初交年齢が下がっているのか上がっているのか

性交頻度(安定性):一定の頻度で安定的に成功しているのか否か

性的パートナーの数:一定の期間における性的パートナーの数

の4つが計測されています。

なかでも、NSFGの報告書の分析では、とりあえず、初交経験率の推移を経年で見ることが重要だと考えているようで、このあとの報告書でも、①初校経験率の経年推移は示されています。

とりあえず、2015年までの性交経験率の経年推移を見ておきます。15-19歳の性交経験がある人の割合の推移。2015-17年調査では、男性は38%までに減少。

Sexual Activity and Contraceptive Use Among Teenagers Aged 15–19 in the United States, 2015–2017 ( https://www.cdc.gov/nchs/products/databriefs/db366.htm )より引用。

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ここでは、低下要因などについてはここではとくに分析されておらず、10代の出産が1991年をピークに下がってきたからよかったねみたいな話だけで終わっています。

なので、もう少し他の分析も見て、性解放後に起こっている性交経験率の低下(=性行動の消極化?)と見える現象は一体何なのか、何が起こっていると解釈すればいいのかについて考察する必要がありそうです。

「愛の中への性の囲い込み」というコンフルエントラブが起こっているというギデンズ的解釈で本当にいいのか、もしそうだとすればなぜそんなことがどういうメカニズムで起こっているのかということを、もう少し解明していく必要があるのではないかと思っています。