ポストフェミニズムに関するブログ

ポストフェミニズムに関する基礎文献を紹介するブログ。時々(とくに大学の授業期間中は)ポスフェミに関する話題を書き綴ったり、高橋幸の研究ノート=備忘録になったりもします。『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど :ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』(晃洋書房、2020)、発売中。

「効率のいい恋愛」という新たな経験の諸相 ——マッチンググアプリ利用者調査2022の結果から(2)

2023年度日本社会学会 大会報告用 要旨です。石原さんとの連携報告で、第一報告の内容も読まないと良く分からん…?というところもあると思うのですが、とりあえず、文責が自分にあるものだけアップします。

 

「効率のいい恋愛」という新たな経験の諸相

——マッチンググアプリ利用者調査2022の結果から(2)——

 

高橋幸(石巻専修大学), 石原英樹(明治学院大学), 鬼頭美江(明治学院大学), 山田順子立正大学

 

1 目的

 「マッチンググアプリ利用者調査2022」の第二報告として、マッチングアプリでの恋愛の経験のされ方についての分析結果を報告する。アプリでの恋愛はアプリ外での恋愛と比べてどのような質的差異を持つものとして経験されているのだろうか。

 

2 調査から得られたデータの概要と分析方法

 分析するデータは、第一報告と同じく明治学院大学2022年度高橋幸・石原英樹ゼミが行った「マッチングアプリ利用者調査2022」である。マッチングアプリ(以下「アプリ」と表記)利用以前に恋愛交際をしたことがある人は61.1%(11人)、アプリで出会って恋愛交際をしたことがある人は55.6%(10人)、アプリ外の恋愛とアプリでの恋愛の両方の恋愛交際経験を持つ人は33.0%(6人)、アプリ内外を問わない恋愛交際経験率は83.3%(15人)であった。これは、一般的な大学生の「デート経験率」(女性69.3%、男性71.8%、2017年時、第8回青少年の性行動全国調査)さえも越える高い水準であり、「マッチングアプリの利用経験がある人でインタビューに答えてくれる人」を募集した今回の調査は、結果的に恋愛経験が多い層への調査となった。また実際、アプリ内外での恋愛に関する多様な語りが得られた。このデータの分析を通して、アプリでの恋愛の特徴とその経験の諸相を提示する。

 

3 分析結果

 マッチングアプリがもたらしたのは出会うまでの効率の良さである。主に探索効率の良さと関係形成効率の良さがある。一つ目の探索効率の良さとは、自分が求める条件で相手を絞って検索できるため「理想の人」に短時間で出会える確率が高いことを指す。二つ目の関係形成効率の良さとは、お互いに恋人を探しているという前提が共有されており、恋愛相手として自分と合うか合わないかということだけを判断すればよいので、関係形成に支払う労力が少なくてすむことを指す。実際、この効率の良さゆえに、アプリ利用開始から恋人候補を見つけ、最終的に交際に至るまでの期間は、一般的にこれまで想定されてきたものよりも短い。最短の例として、アプリ利用から3日で恋人候補を見つけ、3週間後に付き合ったケースがあった。アプリで恋愛交際に至った10人の平均のアプリ利用期間は3.8カ月、会った人数は8.95人、交際人数は1.5人である。

 ただし、このような恋愛関係形成の早さや相手の人柄に関する情報の制約ゆえに、アプリでの恋愛は「自分が過去に好きだった人への気持ちを考えると全然レベルが違う」や「気持ちが軽い気がしちゃう」、「好きの蓄積が少ない」、「好き度の上がり方が学内の相手とは違う」といった語りが見られた。相手のことが本当に「好き」かどうかが分からないうちに、相手と交際するか否かを決めなければならないのが難しいといった悩みを聞き取ることができたが、これは従来の恋愛観(恋愛関係形成モデル)で培われてきた「好き」という気持ちの理解との質的差異に起因していると推論できる。

 

4.結論

 アプリがもたらす「効率のいい恋愛」は一方でメリットとして語られるが、それに対する違和感や不信感も見られる。さらにマッチングアプリの利用が広がり、恋愛を目的とする者同士が出会って短期間で恋愛関係を結んでいく「効率のいい恋愛」が広がったとき、既存の恋愛観や恋愛行動がどう変化していくのかが今後の論点となるだろう。