ポストフェミニズムに関するブログ

ポストフェミニズムに関する基礎文献を紹介するブログ。時々(とくに大学の授業期間中は)ポスフェミに関する話題を書き綴ったり、高橋幸の研究ノート=備忘録になったりもします。『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど :ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』(晃洋書房、2020)、発売中。

男性の家事育児時間の2010年代の動向について

私と同年代の30代くらいの男性は、けっこう家事育児をやっているという話をよく聞くようになりました。そのことを統計的に実証している論文があったので紹介。

 

渡辺洋子(2016)「男女の家事時間の差はなぜ大きいままなのか─2015 年国民生活時間調査の結果から」『放送研究と調査』Vol. 66, No. 12, pp. 50-63

https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20161201_6.pdf

 

国民生活時間調査は、NHK放送文化研究所が5年ごとにやっている調査。

まず、この論文のタイトル「男女の家事時間の差はなぜ大きいままなのか」の答えは、一言で言えば、男性の労働時間が長いからです。

 男性においては労働時間と家事遂行率や家事時間は負の相関にある(つまり、労働時間が長い人ほど家事をやらない)ということはよく知られている話で、このデータでも基本はそうです。しかし、この論文で私が注目したのは、男性30代40代のなかには「仕事も家事も」を目指す人たちが統計上見えるようになってきたという点。男性の二重負担ですね。

男性の家事行為者率(男性20歳から59歳、平日、1日15分以上の家事をやっている人を「家事行為者」と規定)は、95年時26%でしたが、そこから増加し続け、2015年で37%になっています(残りの6割くらいの男性は、母か妻か、親戚等の誰かに家事をやってもらっているということ)。

男性「家事行為者」のうちの一日平均家事時間は、1995年で1時間34分、2015年で1時間41分(時間的にはあまり伸びてないってことがわかる)。男性全体で平均時間をとると、37分(2015年)。

男性の行為者率を世代別でより詳しく見ると、30代が最も高く44%の人が家事をやっている。第二位が40代で37%、第三位は50代で36%、最下位は20代で29%。

すさまじいのは、30代と40代の男性の48%が1日10時間以上働いているということ(前回調査よりも3%増加)。で、30代40代男性で10時間以上働いている人のうちの28%が家事をしており、前回調査よりも上がっている。このなかには独身で自分の家事を自分でやっているというタイプもいますが、既婚・子ありで「男性も家事をやるのが当然だ」という意識からやるようになっているということも予想できます(渡辺さんは、そう示唆している。ちなみに、「意識」の方はNHKの「日本人の意識」調査のもので、違うデータなので、意識と行為者との相関は実証されているわけではない)。

もちろん、30代40代男性のうち、労働時間が短いほど家事遂行者率は高くなっています(8時間30分以上10時間未満の人の家事遂行率は40%、8時間30分未満の人は52%)。だから、「なぜ家事時間の男女差が埋まらないのか」の答えは、男性の長時間労働のせいだということになります。

 以上より、男性の家事遂行者率はちょっとずつ上がってきているということが分かりました。

 

2.

こうなってくると、いまや「女性が職場参入した初期に直面していた問題に、男性も直面しはじめたのだ!」ということを指摘する『新しい男性神話』(2016)みたいな本が出てくるのも、よくわかる話ではありますね。

この本もまたアメリカのミドルクラス男性の長時間労働と家事育児時間の伸びという現象を受けて、出てきた本でした。

men are experiencing what women experienced when they first entered the workforce in record numbers—the pressure to “do it all in order to have it all.” We term this the new male mystique. 

 

まぁ、「アメリカはどうか分からんが日本ではまだまだよ!」という主張はあると思います。先のデータにも見られたように家事遂行時間は90年代からあまり伸びていないし、専業主婦やパートタイムワーカー女性を抜いたフルタイムワーカーの女性とだけ比較しても、女性の方が圧倒的に長い時間の家事育児をやっているのが現状。

 「ダブルシフト」という言葉は、85年にホックシールドが提起した言葉で、「仕事を終えて家に帰ってきた後に、二つ目のシフト=家事育児をこなさなければならないこと」を意味しますが、それは日本の現状。そのような女性の状況に比べたら、男性の家事参加なんて「まだまだ」ということにはなるでしょう。(しかし、そもそも競ってどちらがより大変かを決定すればいいというような問題ではないような気もします。)

ともかくも、男性の家事遂行具合には、データ上でも変化の兆しが見られる(ようやく)という話でした。