ポストフェミニズムに関するブログ

ポストフェミニズムに関する基礎文献を紹介するブログ。時々(とくに大学の授業期間中は)ポスフェミに関する話題を書き綴ったり、高橋幸の研究ノート=備忘録になったりもします。『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど :ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』(晃洋書房、2020)、発売中。

ネオリベラリズムとは何か1:資本のグローバリズムによるネオリベラリズム政権の登場(全3回の予定)

ネオリベとか新自由主義という言葉は、近年グローバリズム批判と政権批判のさいによく聞くワードですが、バズワードと化しているところがあります(なぜバズワードになっているかというと、端的に言ってしまえば、広義の意味での左翼は、マルクス主義が凋落した後にネオリベラリズム批判をしてきたからです)。そこで、ちょっとまとめておきます。

 *日本語では「新自由主義」とも言われますが、これだとニューリベラリズム(19世紀の自由放任主義的な古典的自由主義)との区別がつかないので、ネオリベラリズムということにします。

ネオリベラリズムとは、1971年のニクソンショックに端を発する固定相場制から変動相場制への移行(ブレトンウッズ体制の崩壊)後のグローバル化のなかで、各国政府がとった経済的・政治的政策(統治体制)のことを指します。
グローバリズムは、カネ、モノ、ヒトの国際的移動と定義されることが多いですが、カネ(資本)が最も簡単に早く動くことができ、次にモノ(商品)、ヒト(労働力)は時間がかかるというように、グローバル化しやすさの順番があります。

カネのグローバルな移動の加速によって、ネオリベラリズム政権が成立した、という話を、以下していきます。

では、カネのグローバルな移動によって何が起こるのでしょう?

1、ケインズ主義からマネタリズム

各国政府は、景気対策として、それまでのケインズ主義的な経済政策(財政政策)から、金融政策へと軸足を移さざるをえなくなります(国が採用する経済理論はケインズ主義からサプライサイドのマネタリズムへ)。メカニズムは次の通り。

固定相場制において、
・景気安定化のために主にやるのは財政政策(税制や国債などによる歳入の政策と、社会保障公共投資などからなる歳出に関する政策のこと)。
・金融政策は、為替レートの安定のために行われる程度。

変動相場制において、
・公共事業を行う→関連企業の取引や投資の増加、資金需要の増加、金利上昇→外資流入による円高→輸出減→景気低下というマンデル=フレミング効果が働いてしまうので、財政政策は無効化される。
・そこで、景気安定化のためにも金融政策がなされることになる。

これまでの物価や通貨価値の安定のための金融政策に加え、景気対策のために、金融引き締めや金融緩和を行う(具体的には、公定歩合や預金準備率を変更したり、公開市場操作をしたり)。金融緩和による金利低下→資金運用が不利になることで円安→輸出増→景気拡大。

 *日本において「カネのグローバル化」が始まるのは、1984プラザ合意以降(双子の赤字→ドル安への操作 日本のアジアへの投資が強まるなど、世界の資本のグローバル化が始まる)。

2、資本に有利な法制度改正

大企業は、ある国の投資条件が悪ければ、その国から投資を引き上げるというキャピタルフライトができるようになるという形で、資本の権力が強くなる。国は、投資が引き上げられないよう、さまざまな規制緩和を行って、大企業に有利になるような政策を整えざるを得なくなる(枕詞は「国際競争力を保つために…(大企業に有利な制度に変えます)」)。

 具体的には、労働の規制緩和(「労働法」「商法」「会社法」の改正)。派遣法等を整備して、労働の流動性・柔軟性を高めるなど。日本では90年代からじわじわ始まり、00年代に本格的に起こる→格差の拡大が顕在化したのが00年代中盤以降(小泉政権時代)で、ロスジェネ論壇が成立。

 3、格差の拡大

産業構造の転換による労働組合の権力の低下(→これが、2010年代のポピュリズム政党支持勢力となっていく)

階級的連帯の低下
中流階級の縮小、貧困層の拡大と極小部分の「最上層」への「富」の集中

  ↓

90年代には「階級」と異なる、新たな「アイデンティティ」(セクシャルマイノリティエスニックマイノリティ、環境運動…等)の社会的承認を求めるアイデンティティポリティクスが興隆。萌芽は69年からの「新しい社会運動」にあったが、それが主流化するようになるのが90年代以降。

 

 4、福祉国家の再編成

オイルショック(73年~)によるスタグフレーション、景気停滞、先進国の高度経済成長期の終わり

・先進国における20世紀後半の長寿革命と高齢化の開始

・日本はこの時期に、福祉国家政策が成立(武川は、1973年に日本の福祉国家が始まるとしている)。日本はヨーロッパよりも「圧縮された」形で福祉国家の成立と福祉国家の再編成を経験している形になる。

 

再編成の具体的内容

①公から民へ:国営企業の民営化、公的サービスの民営化(例えば、NPOによる公共サービスの引き受け(これは、多種多様なニーズにこたえられるようになるという点で良い点もある)、NPM(new public management)の導入など。

②ウェルフェアからワークフェアへ (シュンペーター福祉国家

 →これらが国民・市民一人一人の自己責任の強化を引き起こす

 ③そのほか、「ガバンスの拡大と民主主義の空洞化」などが言われている…(続く)

 

ここまでを時代ごとにまとめてみると

 
 
日本
1950-60年代
福祉国家が成立 ケイジアン経済政策(システム統合)とべヴァリッジ型社会政策(社会統合)
 
1970年代
金融のグローバル化の開始
1971年 ニクソンショック (ドルと金の交換停止)
1973年 変動相場制に移行(ブレトンウッズ体制が崩壊)、各国政府の資本移動に対する統制が失われる
1975~ 福祉国家政策開始
1980年代
・保守イデオロギーを掲げるネオリベ政権の登場(+バックラッシュ
レーガン政権による
・大幅減税と金融緩和政策、マネタリズムによる景気刺激政策。
・軍事への公共投資(戦略防衛構想(SDI)の推進)
・経済活動に関する規制の撤廃と緩和による自由競争の促進。
こんな感じで、福祉国家の再編成開始
ジャパンアズナンバーワンの時代…
1990年代
・90年代中盤からリベラルイデオロギーを掲げるネオリベ政権の登場
・労組の解体による社会党勢力の弱まりと階級闘争で国内政治が動く時代が終わり、アイデンティティポリティクスの時代へ
・カネのグローバル化の影響が大きくなりはじめる
・労働の規制緩和が始まる
2000年代
多文化主義政策の全盛期(ネオリベ経済政策と相性が良い側面もあり)
・保守イデオロギーを伴ったネオリベの進行(ジェンダーバックラッシュも起こる)
 
( その2に続きます)