ポストフェミニズムに関するブログ

ポストフェミニズムに関する基礎文献を紹介するブログ。時々(とくに大学の授業期間中は)ポスフェミに関する話題を書き綴ったり、高橋幸の研究ノート=備忘録になったりもします。『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど :ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』(4刷, 晃洋書房, 2020)、『離れていても家族』(亜紀書房, 2023)、『社会学の基礎』(有斐閣, 2024)、『恋愛社会学』(4刷, ナカニシヤ出版, 2024)発売中。

フェミニストセオリーの立場からの人新世の社会学において重要なナッシュの『自然の権利』まとめ

ロデリック・F・ナッシュの『自然の権利––環境倫理の文明史』(ちくま学芸文庫)がフェミニストセオリー的人新世の社会学において重要文献だと感動しているので、概要をまとめます。

自然の権利 (ちくま学芸文庫 ナ 6-1)

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本書は、「権利」についてのイギリス・アメリカ思想史研究です。

ナッシュの主張を一言でいうならば、「人間という限定された集団の自然権ナチュラル・ライツ)から、自然の各要素や自然全体の権利へと倫理が進化していると捉えることができる」というものです。イギリス・アメリ自由主義リベラリズム)とは、マイノリティの権利を拡大してきた歴史である。この自然権の拡張というリベラリズムの伝統の延長線上で、私たちは動物の権利や自然の権利を論じられるはずだ(図2)というのがナッシュの議論です。

『自然の権利』(図2, p.36)

 

かつて17、18世紀における「民主主義革命」の時代に生じた人間の権利と正義という理念は、社会における根本的で広範囲な変化を、思想と行動においてもたらした。現在の環境倫理学が扱っている「人類と自然の関係は倫理学的に条件付けされる」という考え方もまた、これと同様の大きな変化をもたらすだろう。その意味で、「環境倫理学は、アメリリベラリズムの到達点を示す思想」だ。

このような変化の過程では、「それまでは考えられなかったこと」が「慣習になる」という劇的変化が起こる。動物の権利や自然の権利を法的に確立していくことも、その一つとなるに違いない。

 

1960年代に登場したディープエコロジー思想は環境主義(エンヴァイロメンタリズム)と呼ばれ、それまでの自然保護思想(conservation)から区別される。

そもそも「自然保護」という語がアメリカで広まったのは1907年にギフォード・ピンショーがこの言葉を使い始めた頃であり、このピンショーの用法が当時のアメリカ環境思想の主流となった(p.39)。「自然保護」とは、天然資源を賢明にかつ効率的に利用することを意味しており、功利主義的な自然観に基づいている。人間と自然の関係はユーティリティによって規定されたため、人間は良心の呵責なしに動物や自然を使用することができたのである。

・この時代、動物の虐待はそれをする人間の側の人間性が損なわれるがゆえに、やめるべきというのが「人道主義的な動物保護法」の論理だった。また、動物は誰かの「資産」であり、個人の持つ資産への危害として禁止されたが、それは所有権が神聖視されていたからである。(黒人奴隷も19世紀においては法律上、個人の「資産(動産)」だったということを思い出すことは重要なことである。)

西洋においても中世まで遡れば、動物裁判に見られるように、動物を一つのアクターとして扱っていた歴史があるが、近代に自然と人間の関係は変わったのだ。

このような状況に対して、1960年代に「ディープエコロジー思想」が登場した。これは、生態学的平等主義(ecological egalitarianism)を主張するものであり、自然に対する偏見は、人種差別や性差別、民族的差別と同じような「種差別」であると主張してきた。人間中心主義批判を行い、動物の権利や、生態系自身が権利を持つという思想がこの特徴である。これはときに破壊的・反文化的な主張も行なってきた。

だが、ナッシュはディープエコロジーの思想を擁護しつつ、ディープエコロジーの思想はむしろ自然権哲学すなわち「アメリカの伝統的な自由の理念」の延長線上に成り立つ思想であるという主張を、アメリカ思想史研究に基づいて導出している(p.46)。アメリカ人は自由を自分たちの国家的使命の基盤とみなしてきた(p.103)。動物の権利や自然の権利も、その延長線上に成り立ち、要請されるものである。

 

以上です。

ぜひ多くの人に手軽にナッシュの議論を理解していただきたいという動機で、まとめを作ってみました。このブログ記事をさくっと読んでちょっと面白いかも?と思った人は、ぜひ本を手に入れてみてください!

思想史研究なので、長いし内容が濃いしで読むのは大変なのですが、ナッシュの文章がわかりやすいし、各思想家の思想をかなりバランスよくわかりやすくまとめてくれており、そして最終的なナッシュの主張自体が極めて明瞭でわかりやすいので、おすすめです。

反人間中心主義やディープエコロジーを、「反動的」で「反抗的」な思想としてだけでなく、リベラリズムの延長線上に無理なく出てくる「当然の」思想ですよーということを、論拠を積み上げながら淡々と説得的に論じていくさまが見どころです。

 

自然の権利という議論がなぜ「フェミニスズム(フェミニストセオリー)」とつながるのかというと

権利の平等と自由を重視するリベラリズムという思想の中で、黒人差別反対運動もフェミニズムも成り立ってきたものであり、動物の権利や自然の権利の議論はこのフェミニズム思想の延長線上に成り立つものである。これをものすごく明瞭に論じてくれていたのが、ナッシュだったので私は感動しました。

 

今後、時間を作ってさらに個人的に勉強したいと思っていること

有機体哲学(スピノザライプニッツ)と環境主義の思想的つながり(有機体の哲学の思想史研究をあともう一歩深めたい):スピノザライプニッツは学生時代に読むゆとりがなかった、今からでも読みたい。

で、これらの哲学を勉強した上で、「生命共同体」に関する思想史(生態学やガイア思想を含む)を勉強したい。フェミニズムも女神思想とかガイアとかに関する色々な議論があったので、そこらへんとも最終的にはつながってきそう。