ポストフェミニズムに関するブログ

ポストフェミニズムに関する基礎文献を紹介するブログ。時々(とくに大学の授業期間中は)ポスフェミに関する話題を書き綴ったり、高橋幸の研究ノート=備忘録になったりもします。『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど :ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』(晃洋書房、2020)、発売中。

カルチュラル・タイフーンでのグループ発表「第四波フェミニズムの論点」の趣旨説明

カルチュラル・スタディーズ学会大会であるカルチュラル・タイフーンでのグループ発表「第四波フェミニズムの論点」のオーガナイザーを務めさせていただくことになりました。趣旨説明の文章を載せます。

 

第四波フェミニズムの論点

 2010年代後半から起こっている第四波フェミニズムの特徴は何であり、そしてこの潮流はどこへ向かうのか。このことを、第四波フェミニズムの真っただ中から見通そうというのが、このグループセッションの大きな目的です。
 オーガナイザーである高橋個人としては、「女性のセクシュアリティに関する議論の再熱」が、第四波の特徴なのではないかと考えています。#MeTooやフラワーデモを通した性被害・性暴力告発しかり、萌え絵広告炎上しかり。

 第二波フェミニズム期の「女性のセクシュアリティ」をめぐる議論は、セックスウォーズ(1980年代のアメリカで顕著に起こったフェミニスト内部の分断)という形でこじれてしまった結果、一度棚上げ状態になっていました。棚上げされてきた女性のセクシュアリティという論点が再度、棚卸しされ、新たな文脈のなかでさまざまに議論されているのが「現在」であるように見えます。
 1990年代から2000年代にかけて学問として制度化されてきたセクシュアリティスタディーズやクイアスタディーズの知見を踏まえ、多様なセクシュアリティおよびジェンダーアイデンティティ包摂的な議論を模索しながら、しかしなお「女性(もちろんトランス女性も含みます)」にこだわりながら、女性のセクシュアリティについての議論を深めていくことが重要なのではないかというようなことを考えています。

 

 ターフのような第四波フェミニズムの暗黒面も見えてきている現在、よりよいフェミニズムに向けて具体的にどのような論点をどう深堀りしていけばいいのか? このグループ発表では3名のパネリストとともに、この議論を深めていきたいと思います。

 

 以下、パネリストご本人にご執筆いただいた要約を掲載させていただきます。

 1)佐倉智美, 「プリキュアを評価できないのならフェミニズムは終わっている」

 フェミニストを自認する人がオタクを敵視する事例は探すに難くない。だが本当にオタクカルチャーはフェミニズムと相入れないものなのだろうか。そうではない。ことの傍証として『プリキュア』にフォーカスし、そのジェンダー観点からの評価ポイントを、まずは再確認する。さらにはプリキュアがもたらした「ケアの倫理で戦うヒーロー」の主流化にどのような意義があるのかを展望してみる。

 

 2)関根麻里恵,「「そこのあなた」のためではないポートレート:〈人間ラブドール製造所〉の実践をフィメール・ゲイズから読み解く」

 おもに男性向け愛玩人形とみなされる「ラブドール」の表象を用いつつ、「体験を通して自分を愛でられる人間を創造する」という理念を掲げてオリジナルの「人間ラブドール」を製造・撮影する逆転変身専門店〈人間ラブドール製造所〉を取り上げる。本サービスは、ともすれば第三者に視覚的快楽を与えかねない一方で、そうした力学を逆手に取った実践が行われているといえる。そこで、「フィメール・ゲイズ(Female Gaze)」という概念を援用し、本サービスで行われている「攪乱的」実践を読み解いていきたい。

 

3)柳采延(リュウチェヨン)「韓国における第4波フェミニズムの展開とラディカル・フェミニズム:「4非(4B)」を中心に」

 韓国における第4波フェミニズムは、女性嫌悪文化に対抗したネット上の「ミラーリング運動」(2015年)から始まり、2016年「江南駅女性殺害事件」がフェミニズム運動の拡散の起爆剤となった。その後韓国版の#MeToo運動とともに、10-20代のラディカル・フェミニストを中心とした「脱コルセット」運動と「4非」(非婚・非出産・非恋愛・非セックス)(2019年)へと展開していった。本報告では、これらの展開を踏まえた上で、特に「4非」に焦点を当て、前世代のラディカル・フェミニスト(「ヤングフェミ,young feminist」)との差異と、その背景、韓国的特徴について考える。