アイドル幻想を少女に押し付ける大変に気持ち悪い本:『アイドルになりたい』(2017、中森明夫、ちくまプリマ―新書)
私は基本的に、露骨な批判は書かない人なのですが、これはあまりにも問題なので、指摘しておいた方がいいような気がしました。
問題点は、「アイドルになる方法」を解説した10代向けのこの本で、アイドルになりたければ現実の男性に性欲があるということを受け入れることを当然のこととして要求しているところにあります。私は風俗嬢やAV女優などに対する偏見はとくにありませんが、アイドルになることは風俗嬢になることではないのだから、それを受け入れることを「当然」とする前提には異議申し立てをしてよいと思う。
以下、抜粋。
「アイドルの場合、ヌードになるなんてことは、まずないだろう。でも、水着になったり、セクシーなグラビアの撮影があったりはする。若い女の子なら恥ずかしいと思うのは、当然だよね。だけど、それは仕事だ。自分にとって得になる仕事なんだ。恥ずかしがってちゃいけない。そう意識を変えるべきなんだ。」(中森 2017:161)
「嫌いな人は相手にしないってわけにはいかない」(中森 2017:50)
「アイドルになる、ということは、アイドルを仕事にする、ということだ。アイドルとして生活する、ということなんだ。この現実にね。きみは現実を受け入れなければならない。すべては、そこから始まる。」(中森 2017:92)
「皆を元気づけることがアイドルの仕事なんだよ」(中森 2017:100)
「歌がヘタでも、ダンスがダメでも、美人じゃなくても、全然いい。極端な話、誰だってなれる。だから、むしろ気持ちや心構え、ガッツやスピリットこそがもっとも大切なんだ。アイドルとしてブレークすることの9割9分は、それで決まると言っていい。」(中森 2017:134)
「ファンの多くは、アイドルを疑似恋愛の対象として見る。だからCDをたくさん買ったり、サイン会や握手会へ駆け付けたりして、お金を支払う。そういうビジネスだ。」(中森 2017:143)
後半の方はオトナの立場から、アイドルを目指す少女に「現実」を知ろうと言っているわけだが、アイドルの仕事は別に「恥ずかしいよね」とか言われながら「水着」になることではないのではないでしょうか。
アイドル本人が「セクシーなグラビア」撮影をやりたければやる、やりたくなければやらなくてすむというような仕事にしていけるよう、オトナのアイドルファンの方には頑張っていただきたいところでございます。