ポストフェミニズムに関するブログ

ポストフェミニズムに関する基礎文献を紹介するブログ。時々(とくに大学の授業期間中は)ポスフェミに関する話題を書き綴ったり、高橋幸の研究ノート=備忘録になったりもします。『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど :ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』(晃洋書房、2020)、発売中。

アメリカの10代の性行動の消極化は1990年代から継続中:NSFGデータ分析の報告書から

1. ytakahashi0505.hatenablog.com の続きです。 とりあえず、アメリカの疾病対策予防センター(center for disease control and prevention, CDC)のnational center for health statistics(NCHS)がやっているNational Survey of Family Growth(NSFG)の…

批評界隈の「圧をかける」というあり方について:マッチョさとどう折り合いをつけるか

1. 新情報を提供するタイプの文章ではなく、ある程度知られていることに関して「論じる」ようなタイプの文章を世に出すときって、「書き手である私はこのことについてはよく知ってますから、これだけ見てますから、ここまで考えて書いてますから」というの…

アメリカにおける性行動の不活発化:GSSデータ18歳から44歳の成人男女を分析した論文の紹介

2022年11月25日追記 こちらで紹介した論文の最新データが出ています。 https://bedbible.com/sex-frequency-statistics/ こちらがオリジナルデータとなります。ご参照のさいは、こちらをお使いください。 1.概要 性行動の不活発化は、アメリカでも起こって…

プロテスタンティズムの倫理とロマンティックラブの精神:デビッド・ノッター『純潔の近代』の論点整理から

1.近代的主体を構成する原理としてのロマンティックラブ かの有名なプロ倫(『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』)にオマージュを捧げつつ、「プロテスタンティズムの倫理とロマンティックラブの精神」を、現在語るべきだという話をしたいと思…

『エヴァ』は身も心も一つになることを称揚している作品なのでは:エヴァ解釈についての補足

エヴァ解釈の話。 ytakahashi0505.hatenablog.com 私は前回のエントリーで、「人類補完計画は、人類の融合と性的「融合」(セックスのこと)を重ね合わせて表象されているが、主人公のシンジにはその誘惑をふりはらうことが期待されていた。ミサト、リツコ周…

後期近代における恋愛論の重要性1

1. 個人の「自由」の拡大が共有された社会的な「善」になっている現代において、恋愛や性といった「個人的なもの」をめぐる議論は、ますます重要になっている。 再帰性が高まる後期近代論者のギデンズ、バウマン、ベックらが親密性や愛についての論考を書…

LAMP IN TERREN

最近のロックだったらLAMP IN TERRENがいいですって教えてもらっていたのだが、この数日しっかり聴き、それ以降、打たれてけっこう茫然自失している。 松本大が書く詩の特徴は、「キミ」が具体的な像を結ばないところにある。これは確信的にやっていると思う…

男性オタクコンテンツにおける距離のパトス:性的比喩で描かれる人類補完計画の考察から

人類補完計画とは何だったのかを考えていたら、男性オタク向けコンテンツにおける「純愛と性欲の間の距離のパトス構造」とでも呼ぶべきものがあるのではないかということに思い至りましたが、とりあえず、ずーっと人類補完計画の話で、距離のパトスについて…

承認欲求とは何か2:なぜ人はアイドルになりたがるのか

ytakahashi0505.hatenablog.com ( 一応続きだけど、内容的には上記を読んでなくても分かるようになってます。つまり、あんまりつながってない。) 1. 現代の承認欲求について主題的に扱っている本として、 山竹伸二, 2011, 『「認められたい」の正体:承…

承認欲求とは何か(社会心理学講義で喋ったこと+α)

承認欲求について喋った回の内容を書いておきます。 1. とりあえず、承認欲求はマズローらパーソナリティ心理学によって、こう整理されてきました。(下図は『心理学』有斐閣、2013、p.194より引用) 下位の欲求が満たされることで、より上位の欲求が湧い…

合意形成プラットフォームでのフェミ議論とかできたら面白いんだけどなぁ、技術者求む!

合意形成プラットフォームvTaiwanのような仕組みで、現在のフェミニズム的議題をめぐる布置のようなものを描けたら面白いなと思った。 vTaiwanの仕組みの詳しい説明として、こちらがわかりやすい。 https://note.com/a28szk/n/n0c23db878c48 他のSNSと同じよ…

ネオリベラリズムとは何か1:資本のグローバリズムによるネオリベラリズム政権の登場(全3回の予定)

ネオリベとか新自由主義という言葉は、近年グローバリズム批判と政権批判のさいによく聞くワードですが、バズワードと化しているところがあります(なぜバズワードになっているかというと、端的に言ってしまえば、広義の意味での左翼は、マルクス主義が凋落…

『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど』著者解題(2020年12月17日)

*某フェミニズム研究会で拙著の検討会をしていただきました。その時に出した著者解題をアップしておきます。 著者解題 高橋幸『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど:ポストフェミニズムと「女らしさ」の行方』(2020、晃洋書房) 概念整理 ポ…

1980年代のポスター批判運動を知ろう(『ポルノ・ウォッチング:メディアの中の女の性』1990年、行動する女たちの会)

1980年代のフェミニズムによるポスター批判運動がどのようなものであったのかについては、『ポルノ・ウォッチング:メディアの中の女の性』(1990、行動する女たちの会)を読むとよくわかります。 この本は、大変ユーモアにあふれています。怒りで動いてはい…

男性の家事育児時間の2010年代の動向について

私と同年代の30代くらいの男性は、けっこう家事育児をやっているという話をよく聞くようになりました。そのことを統計的に実証している論文があったので紹介。 渡辺洋子(2016)「男女の家事時間の差はなぜ大きいままなのか─2015 年国民生活時間調査の結果…

【議論のための概念整理】「性差別」とは何か:社会科学的な用語としての「性差別」

1.「差別」とは何か日常語として理解されている「差別」とは、「相手の属性に対する偏見ゆえに、相手を低く評価したり相手をおとしめたり、社会的待遇を変えたりすること」くらいの意味だろうと思います。 ただし、社会科学においては「差別」という語は、…

赤十字はどういう若者向けポスターを作ってきたのか

#シンこれフェミ 当日に使うかもしれない参考資料たちです。 1.赤十字社とオタクの関係に関する全体的なざっくりした流れ 日本では、1969年に売血が終了。以降、日本では売血は禁止。献血の「記念品」として、クオカードや図書券が渡されていた時期もあっ…

認識的不正義:「表象はなぜフェミニズムの問題になるのか」(小宮友根)(基礎文献4)の読解と考察

1.認識レベルの不正義 websekai.iwanami.co.jp 上記の小宮論考は、私たちがいま使っている言語体系や思考枠組みにおいて、女性に対する暴力や抑圧を言い表す言葉が不十分であるという「認識的不正義」があるということを論じたものです。 ・小宮さんが「コ…

#シンこれフェミをやる目的(高橋の理解):当日のパワポの一部を公開

#シンこれフェミをやる目的(高橋の理解)

【#シンこれフェミ 3-1】ASAに見る、広告における性別ステレオタイプ表象の自主規制

1. 社会における表現の問題に関しては、「規制すべきか否か」をバトっていても、あまり意味はありません。「表現の自由」と「人権保障」の対立が起こったときに本当に議論すべきことは、表現のインフラを具体的にどう設計していくのか(既存の制度のどこを…

【#シンこれフェミ 3-2】公的広報におけるジェンダー表現ガイドライン策定の経緯と現在:広告規制に関するこれまでのジェンダー論の議論1

90年代後半に、国及び地方自治体の行政機関における広報ガイドラインが策定され運用されてきた経緯がざっくりとまとめられている論考として、ジェンダーの観点からメディア論研究をしてこられた大家・諸橋先生の以下のような論考があります。 www.koho.or.jp…

【#シンこれフェミ 3】規制の問題を考えるときには、まずは「わいせつ」と「性差別」を区別しよう:堀あきこさん「性表現の規制をフェミニストは求めていない」(基礎文献1)を読んで考えたこと

wezz-y.com 1.「わいせつ/性差別」の区別は重要 まず、堀さんは「わいせつ」と「性差別」を区別されています。これ重要です。 堀さんの議論によると、性器表現などの「わいせつ」は法規制されてきたが、フェミニズムにとっては「わいせつ」を規制すること…

【#シンこれフェミ 2】#シンこれフェミにご参加のみなさまへ(ご挨拶&ウェルカムメッセージ)

1.自己紹介 #シンこれフェミ にご関心を持っていただきありがとうございます。 私、高橋幸は、フェミニズムを研究している人間です。 アカデミックの世界に15年くらい住んでいる関係で、 日本の学的なフェミニズムで、「だいたい」どんなような議論がなさ…

【#シンこれフェミ 1】坂爪さんのコーディネートによる青識さんとの討論会をなぜやるのかについて(フェミニズム研究者向け)

坂爪さんのコーディネートで、青識さんと討論会をします。 高橋が出ていく理由 1、坂爪本に良い意味で煽られたため:坂爪さんの今回の新刊本『「許せない」がやめられない』(2020)に煽られたところが一番大きいです(笑)。 坂爪さんは、今回さらに新しい…

「女性の性的主体化形式」論文の引用文献でオンラインで読めるものまとめ

私の「女性の性的主体化形式」に関する論文の引用文献のうち、オンライン上で読めるものと、その場所をまとめました。 American Psychological Association. (2007). Report of the APA task force on the sexualization of girls, Zurbriggen, Eileen L., C…

女性の性的主体性についての論文を投稿しました。その引用文献の一部を紹介。

(ふわっとした前置き長めです) ラディカルフェミニズムは、現代社会の「男性による女性支配」や「男社会」は性的なもの(セクシュアリティ)を通して完成しているのだと言いました。たしかに、女性を性的対象として捉えたり扱ったりするときには、人や場合…

「母性空間」からの脱出、そのための新たな愛の関係とは ――宇野常寛著『母性のディストピア』(集英社2017、早川書房2019)書評――

「母性空間」からの脱出、そのための新たな愛の関係とは ――宇野常寛著『母性のディストピア』(集英社2017、早川書房2019)書評――*1) 本書の主題 本書は、マンガ・アニメ作品読解を通して現代日本社会を論じる文芸評論家・宇野常寛の評論集である。世界で…

第三波フェミとポスフェミの共通点と相違点(Piepmeier 2006)

Alison Piepmeier, 2006, “Postfeminism vs. the Third Wave“ Electronic Book Review, March 17, 2006, の内容を紹介しつつ、私が第三波とポスフェミの違いをどう同定しているかを書いておきまーす。 electronicbookreview.com 第二波フェミニズムから自分…

『やがて君になる』がすごくよい

1 Twitterですでに呟いたのですが、『やがて君になる』(原作2015-2019、アニメ2018)が素晴らしい。 アニメ放映が2018年10月-12月で、これは『色づく世界の明日から』(2018)や『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』(原作2014‐、アニメ2018)と…

「空洞な身体」に宿る憑依 ――中上健次の身体論――

実は、私は一時期「もう研究者になるのムリかも、正規ポスト得られなさそう、物書きとして生きていこう」と思っていた時期があって、その頃、『群像』の新人評論賞に応募したことがありました。30代中盤、2010年代のこと、応募したのは2018年春のこと。 群像…